DON'CRY -ドンクライ-

アニメやマンガ、ゲームに小説、音楽など、「作品」によって孤独から救われて生きている人のためのメディア

GAINAXやTRIGGERのクリエイターも注目する大学生とは!? 9畳の木造アパートでアニメを作る理由…

昨年11月、1本の動画がネットに公開されました。

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臨界点を突破する勢いで、噴き荒れるロケットエンジンに……。

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ロボの魂をむき出しにした劇画調のカットイン……。

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どこか80年代アニメを彷彿とさせる映像に浮かびあがる、「遊びじゃない」「幼い日の僕たちを乗せて」の文字。

動画が添えられたツイートは瞬く間に広まり、100人単位でフォロワーがどんどん伸びていく。

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しかも、動画を制作したのは、「激画団(げきがだん)」を名乗る、京都の大学生たち。え……絵のタッチ的に、40代のアニメーターとかじゃないの!?

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さらに驚いたのはその規模感。2,3人ではなく、30人もの有志が集まって制作していること……。

怒涛の盛り上がりの中、僕らの中にも自然と興味が湧いてきました。

「知りたい……。 一体彼らは、どんな人間で、どんな気持ちを込めて、この作品を作っているのか……? 実際に会って、見て、話を聞きたい!」

それからTwitterで取材依頼を出し、翌週には彼らが住まう拠点、京都に向かったのでした……。

 

たどり着いた木造アパート「激画荘」

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そんな僕たちを迎えてくれたのが、この木造アパート。すごい年季が入っている……。

激画団はこのアパートを「激画荘」と名付け、授業後に作品を作っているらしい……。

しかし一体なんなんだろう、このほとばしる青春の香りは……まるで現代の「トキワ荘」のようじゃないか!

「こんにちは!」

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するとドアが開き、爽やかな声の先にいたのが、この青年……。えも言われぬタイムスリップ感。

下駄に、作務衣、そして束ねられた髪……80年代……? あれ、大学生って聞いていたはず……。

「監督の長野です。今日はよろしくお願いします!」

あ、監督! そう、彼こそが激画団の監督、長野風太さんだったのです。もちろん、京都の大学に通う「現役」の大学生だそう。

「では、こちらです」

 

現れたるは、まさしく制作現場!

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こ…!

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これは…!!!

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積み上がったカット袋……。

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スケジュール進行に関する表……!

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そして、真剣な眼差しで作画をするアニメーターに……

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指導する作画監督まで…!

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中には、劇中の音楽をつくっているスタッフも!

オイオイ……もう、これアレじゃないですか? 僕らが雑誌やテレビで見て、胸を高鳴らせていた、アレですよ、アレ!

そう、まるっきり「制作現場」じゃないですか!!??

9畳2部屋だという激画荘は、本当にアニメスタジオだったのです!

 

自分たちでアニメを作るしかなかった

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ーーすごい環境に面食らっておりますが、本日はよろしくお願いします!

長野:はい、よろしくお願いします。

ーー早速なんですけど、この激画団ってどういう経緯で集まったメンバーなんですか?

長野:あ、ちょっとこの話は作画監督の内田も呼んでいいですか。お〜い、内田〜!

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内田:あ、こんにちは、作画監督の内田です。

ーーさっき作画を教えてた人だ!

長野:創立のきっかけですが……「創作欲求が合わさった」っていうのが一番大きいですね。

ーーと、いいますと?

長野:僕らは大学のアニメ学科に通っていて、大学にアニメサークルはあるんですけど、アニメ制作をしてるサークルはなかったんです。

だから、「自分でやるしかない」という状況でした。

ーーえ、アニメ学科があるのに、アニメ制作をしているサークルはないんですか?

長野:ええ……それが大学に入って最初に凹んだことでして……。

「朝まで自習室にこもって、机の下に寝泊まり! それが美大生!」と思っていたんですけど、そんなこと全然なくて……。

でも、落ち込んでいたら、偶然DAICON※の話を内田とできて、「おぉ! アニメ好きなヤツいるやんか!」と嬉しくなって(笑)

※DAICON:大阪で開かれていた「日本SF大会」の愛称。ここで活躍したアニメ制作集団、DAICON FILM(ダイコンフィルム)が、後のGAINAXの母体となった。メンバーに庵野秀明や赤井孝美、山賀博之などがいた

ーーその年齢でDAICONの話で盛り上がれるなんて珍しいですよね! ちなみにそれって、どういう状況だったんですか?

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(出典:amazon / ©東宝)

内田:学校の課題を教室でやってて、そしたら同じクラスの長野くんがいて、自然とDAICONの話になったんです。

あの頃、『アオイホノオ』※のドラマ版とかテレビでやってて、すごいタイムリーでしたから(笑)

※アオイホノオ:島本和彦によるマンガ。後にGAINAXを立ち上げるDAICON FILMの学生たちも登場人物として多く登場する。

ーーあ〜なるほど〜! この現場を見て、激画団が実写版『アオイホノオ』みたいになってると思いました(笑)

内田:それに、長野くんは、もともとお父さんがその年代の人だったもんね

ーーえ、そうなんですか?

長野:あ、はい。1期生のオタクといいますか……。未来少年コナンの同人をやってたとかで...…。なので、僕はアニメに触れるのがすごく自然だったんですよね。

だからこそ、実際に作ることに強く興味を持って入った大学に、すごく落胆してしまって……。

ーーたしかに理想と現実のギャップ、かなりありそうですね……。

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(左から音響制作の岡本さん、制作進行兼撮影監督の中野さん、監督の長野さん、作画監督の内田さん、作画の木村さんと坂田さん)

長野:でも、内田と会ってからは、夜通し話したり、絵を描いたり……(笑) そこに今は撮影監督の中野や、動画検査の坂田ってヤツとかも入って、段々人が増えたんです。

ーーうわー! だんだんとチームが出来上がっていく熱い展開だ!! そのワクワク感、マンガの『映像研には手を出すな!』みたい……。

※『映像研には手を出すな!』:大童澄瞳によるマンガ。「ブロスコミックアワード2017」大賞。女子高生3人が集まって、アニメを作るストーリーがSNSを中心に好評を博している。

 

とにかく、やりたいことを追求したい!

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ーー背景がわかってきたところで、作品についても伺いたいです。

最初にパイロットフィルムを拝見した時にとにかく驚いたのが、過去のアニメ、どれだけ掘っていってるんだっていう……(笑)

一同:(笑)

ーー色々入ってますよね、この作品(笑)

長野:コンテ段階で皆の「やりたい」を入れてまして……。

僕はもうそれこそ、PVを観ていただいてわかる思うんですけど、70年代、80年代の日本アニメーション※一派が好きなもので……。

※日本アニメーション:『未来少年コナン』や、『フランダースの犬』などの『世界名作劇場』を制作したスタジオ

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(監督の机には往年のジブリ映画のDVDが並ぶ)

ーーたしかに監督の机には、かなり年季の入ったアニメグッズが……!

長野:小さい頃からずっと観ているので、どうしても色んなところをかい摘んで、コンテに入れちゃうものですから。

あと、わざとパロディ※要素を出すのは、やっぱりGAINAXの影響ですね。

※パロディ:他作品から要素を借用し、別の作品に引用すること。わかるかわからないか瀬戸際の元ネタが、クリエイターとファンの間でコミュニケーションを生むことも多い。

例えば、ロケットの噴射シーンとか……

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ーーはい、はい。もう明らかにもう……(笑)

長野:もうパロディ、パロディの……(笑)

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(出典:amazon / ©バンダイビジュアル)

ーー完全に有名な『王立宇宙軍オネアミスの翼』のロケット噴射のシーンですよね

一同:(笑)

長野:こうやって笑って観てくれるとすごく嬉しいんです(笑)

ーー「このパロディーの元ネタ知っているか?」って観客に投げかけていくスタイル、まさしくGAINAXじゃないですか!

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長野:自分のフェチズムだとか、さっき言っていただいた「掘る」っていうか、メンバーの「ここだ!」っていうところを追求したかったんです。

他の人がやらず、なおかつ自分たちが一番やりたいことを追求したらこうなりました。

 

周囲とのギャップが苦しかった

ーーただ、80年代、90年代のアニメに一番影響を受けつつも、いま10代後半〜20代前半じゃないですか? なかなか周囲にそういう人って少ないと思うんですよ。

それに対して、分かってもらえない苦しみはありますか?

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長野:苦しみというか悲しみのような、時代的なギャップを感じることはあります。

たとえば、僕が好きなのは先ほども言ったのですが、小さい時から見てきたジブリと日本アニメーション作品で……。

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(出典:amazon / ©ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)

それこそ、劇場版『名探偵ホームズ』の「青い紅玉(ルビー)」とかなんです。

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内田:ギャップは僕もあります。例えば、僕はロボットアニメが好きなんですが、中でも大好きなのは、『鉄人28号』だったり、今川泰宏監督が描く『ジャイアントロボ』だったりするんですよね……。

あと、最近のロボットはビームとかガトリングガンを持っているのが普通ですが、僕はやっぱり『THE ビッグオー』のように、最後は拳で……

ーー「サドンインパクト」、ですよね!(笑)

一同:(笑)

長野:結局最後は肉弾戦(笑)

ーーいや〜なるほど。だからこそ、パロディーを通じてそれが好きな人とコミュニケーションしているワケですね。

「俺の”好き”がわかるだろ? わかってくれ!」っていう叫びでもあると。

 

制作環境が面白いアニメは面白い!

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ーーこの「激画荘」っていうスタジオも面白いですよね。部室感があるというか……。いろいろなところにメンバーのラクガキとか貼ってありますし。

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長野:ありがとうございます。この「激画荘」だけは24時間明かりがついていて、オープンなんです。

「メンバーなら誰でも来ていいよ」っていう場所は常に確保してますね。

ーーそれは何故ですか?

長野:やっぱり、自分が面白いと思うアニメは、制作環境が面白いからです(笑)

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(出典:amazon / ©バンダイビジュアル)

『攻殻機動隊』のセリフを引用するんですけど、

我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。

あるとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ。  

という、まんまそれで(笑)

各個人が一つの目標に縛られるんじゃなくて、全員の原動力が統一された先に、一つの目標がある方がいいと思ってるんです。

ーー縛られた場合はどうなるんでしょうか?

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映像の1コマになった時、密度が全然濃くないモノができてしまいます。

せっかく共同作業してるのに、誰か1人の「俺はこれがやりたい」に、他の誰かが刺激されて「俺ならこうしたい!」ってなっていくことさえ起きない。

でも、多分そういうのって、見る人は画面を通して気づくと思うんですよ。「苦労して作ってるな」とか「フェチズム詰まってるな」とか。

ーーなるほど……。プロのアニメ演出家、金子祥之さんにインタビューさせていただいた際にも、色々な方の「面白さ」が入るからこそ、作品全体の面白さが磨かれると仰られていましたが、やはりそうなんですね。

 

ぶっちゃけ、経済状況ってどうなの?

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(積み上げられた「支援物資」)

ーーお聞きしていて、かなりしっかりとした活動をされていると感じました。でも、ぶっちゃけ、経済状況というか、活動資金的なモノって、どこから得ているんでしょうか?

長野:カンパと、貯金の切り崩しですね(笑)

ーーヒーーー厳しい……!!!

長野:作ってると、アルバイトをする時間もないですからね……。

ーーでは、拠点であるこの「激画荘」の費用は?

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長野:ここは僕が住んでいるので、その生活費から出してます(笑)

いちおう家賃が毎月3万5000円と、そこに水道光熱費。で、水道光熱費は全員が使っているので割り勘。そして、できるだけの節約をしてます(笑)

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例えば、冬は暖房を使わず、石油ストーブを使う。それも1つしか使いません(笑) 

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(一部屋の半分はメンバーが雑魚寝するエリア)

それで夜、寒いから、寝る時はこのストーブの前を取り合って、全員がぎゅうぎゅう詰めになって寝るとか(笑)

ーーシビア! だけど、この貧しさを耐え抜く青春感、どこか羨ましい部分もありますね……。

あとは、作画机とかポスターとか、どうしても掛かってくるお金については呼びかけしてメンバー間でカンパしてます。

ーー大変だなぁ……。

 

出会えたことが一番の幸運

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(隣り合う、監督と内田さんの机)

ーー周囲とのギャップへの悲しみとか、制作の大変さはありつつも、激画団が激画団として集えたことに大きな価値があるように感じました。

長野:そうですね。それこそ時代的なギャップについては、作業中に内田と「なんでかね?」っていう愚痴を言い合ったり、共感したり...…そこでガス抜きしてますね

ーー内田くんとしても、そこは嬉しいことでした?

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内田:そもそも僕は、周囲とのギャップみたいな話をできる人が「まず存在しない」と思って生きてきて(笑)

ーーははは、わかります、わかります(笑)

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(内田さんの机にはデカデカと『AKIRA』のポスターが!)

内田:中高の自己紹介でも、つい「大友克洋が好きです。アニメーターなら大平晋也のエフェクトが最高です」みたいなこと言ってしまって(笑)

もちろん、誰も食いついてくれなくて……。でも、大学で長野くんと出会ったら、これに反応してくれたんです

ーーうわぁ〜〜〜!それは嬉しいですね!

長野:あの日が、初めての徹夜だったな...(笑)ずっと話をして。

ーー最高の青春だなぁ……! おじさんたち、ちょっと泣きそうですよ……。

2人にとっては今こうして机を並べて制作していることが、一番の救いなのかもしれませんね。

長野:……そうかもしれませんね。 出会えたことが一番の幸運だったんじゃないかなって思います……。

ーーなんだか僕らも心がアツく、それでいて温かくなりました。どうもありがとうございました!

長野・内田:ありがとうございました!

ーーーーーー

学生の有志が30人集まった激画団、そして激画荘。その中心にいたのは、強い想いをもった青年たちでした。

誰に何を言われても、自分が作りたいものを作る。それを世の中にぶつける。

そして、一般には分かってもらえない趣味も嗜好もフェチズムも、分かり合える仲間たちを見つけて原動力に変えていく。

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そんな力強い彼らの心を育てたのは、ジブリやGAINAXを始めとした、僕らが愛するアニメ文化。

彼らを応援したいと思った僕らは、帰り際、募金箱に3,000円を入れつつ、彼らを支援するプロジェクトを立ち上げたい旨を伝えたのです。

そんな取り組みは半年の準備期間を経て、仲間を増やし、そして応援しくださる方々が声を上げてくださって、今ここに形になりました。

「彼らの想いを、多くの人に伝えたい」

僕らのそんな想いに共感してくださる方が、もしいらっしゃれば、ぜひ一緒に彼らを応援していただけないでしょうか?

何卒、よろしくお願い申し上げます!

camp-fire.jp

(クラウドファンディングページ)

 

書いた人:

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ノダショー(DON’CRY編集長 / 激画応援団 団長)

twitter.com


取材:ノダショー、稲田ズイキ

twitter.com