なんとなく生きづらい世界をできるだけ愉快に、できるだけ持続的に、できるだけ美しく、どうにかこうにかうまいこと生き抜いていくためのいろいろを共有するためのウェブサイト。
こんにちは、編集長のノダショーです。冒頭からいきなり抜粋ですいません。
そして、これはもちろんドンクライのaboutではありません。
けれど、読者の方には「ひとりの夜を共に越えよう。」を掲げて活動しているドンクライと、近いコンセプトを感じてもらえるかもしれません。
それが、『冷凍都市でも死なない』(以下「死なない」)というライフスタイルメディアです。
辛いからこそ、美しく。
「死なない」をざっくり紹介すると、生きづらい毎日だからこそ、自分の生活範囲は美しくあろうとする精神が表われた記事を制作・発信しているメディアです。
とはいえ、「なぜドンクライが?」という疑問があるかもしれません。これまでのドンクライであれば、こういった人々とは無縁だったからです。
なぜなら、僕らはマンガやアニメなどのサブカルチャーに救われている人間であって、料理に救われたりしている訳ではないからです。
けれど、『新海誠展』を通じ、僕らが敬愛する彼が、自らが住まう埼玉県大宮市での暮らしを愛し、
健やかに生きたいなら、自分が今いる環境を好きになるしかない。
そう述べていることが分かりました。もちろん、実際に彼が住まう大宮は『ほしのこえ』の舞台にもなっています。
彼のフィルムの美しさは、幾度となく僕らの生き辛さを癒してきた。
けれど、そんな彼の原点は、埼玉県大宮市での生活環境や暮らし、日常を愛すること、つまり、風景や部屋、小物、料理やモノづくりにいたるまでを愛することだった。
そしてそれを美しく描くことこそが、彼を癒し、僕らを癒していたんです。
(「生活環境を愛せるか。幸せになる分岐点を『新海誠展』に学ぶ」より)
であるとすれば、人間関係に苦しむ僕らこそ、新海のように生活環境も愛することが案外、重要なのではないか?
そこで、生き辛くても楽しく、美しく生きる術を集めて共有する、新海に近い考えだと僕が感じる「死なない」に話を聞きたいと思いました。
さて、そんな「死なない」の中心人物、野口翔平さん(@ktzgw)は現在、東京藝術大学の4年生。今年卒業後、就職はせず、フリーランスになられました。
生きづらいからジャムを煮る。「全能感」の効能
ーーさて、早速ですが、なぜ「生きづらさ」にフォーカスした「死なない」を始めようと思ったのでしょう?
そうですね……僕の原体験として、中高時代がやや鬱屈としていたというか…。いじめられていたとか、何か具体的にネガティブな体験がある訳では全然ないんですが、そんなに友達も多くないし、社交性も高くない。あんまり生活に楽しみがありませんでした。
--そうだったんですね。部活とかはやっていたんですか?
一応、中学時代はバスケ部でした。
でも、3年になっても1年生に負けちゃうくらいで、どんだけ練習しても上手くも強くもならないし、全然楽しくなくって、ずっと無意味な時間を辛い状態で過ごしていました。
それで「なんで生きているんだろう?」とか思いつつ、そのまま高校生活に入りました。
--なかなかしんどそうですね……。高校でもバスケを続けられたんですか?
いや、高校は軽音部でした。そこでは以前より楽しかったんですけど、本当にぼんやりとした劣等感みたいなものがずっとあったんです。
部活の友達はいたけど、クラスに友達はいなくて机に突っ伏して寝てましたし(笑) 部活までの時間は、そうやってただただ時間をやりすごすという。
--充実感みたいなのがあまりなさそうな感じですね。
それで、実家で夜、母親が寝静まってからキッチンで、カレーやジャムを大量に作ったりしてましたね。
--お、おぉう……!? 普通そこで、「よ~し、じゃあ大量のジャム作るぞ〜!!」とかはならないと思うんですが……(笑)
もともと自分で何か作るのが好きだったので、そういうのを気晴らし的にやっていたんです(笑)
でも何より、お店で売ってて買えば手に入るものを、あえて作るのが好きだったんですよね。
--……失礼ながら、「買えばよくない?」と思ってしまいました。
それもそうなんですけど(笑)そういうものをあえて作ると、売ってるものは案外自分の手でも作れる、だいだい自分でどうにかなる、という「全能感」のようなものを感じられる気がして。
ーーどういうことでしょうか?
鬱々とした中からどうしても劣等感とかを感じるじゃないですか? 「自分なんか何もできない…」って。
ーーええ、まさしく僕もそうでした。
でも、それに対抗するものとして、ジャムを煮たりカレーを作ったりする。ちゃんとレシピ通りにやれば大体できる。そうすると、自分で作った時の満足感とか、自分もできるっていう自信が手に入る気がします。
ーーなるほど。確かに僕も家庭科でご飯と味噌汁作った時、「これで明日の朝から一人でも生きれる」と嬉しく思った記憶があります(笑)カレーやジャム以外にも、そういう経験はありますか?
例えば、自分でパソコンを組み立てて作ったりしてましたね。中3の頃、パソコンが欲しくて。でも、普通に買うと高いから買えなくて。
--そうですね。10万以上することもありますし。中学生だと親にお伺いを立てなきゃですね。
でも、そこで、友達づてに自分で組んで作れることを知って。それで調べて、秋葉原でパーツを買って組み合わせて作ったんです。組み合わせただけなのでそんな難しいことはやってないんですけど。でも、それが初めてちゃんと起動したときはかなり嬉しかったですね。
高いお金を払わないと手に入らないと思っていたものでさえ、案外、自分の手でも作れる、だいだい自分でどうにかなると気付ける。そういうものが、「全能感」に繋がった気がしています。
ーーあぁ~…なるほど。
他にも、音楽やってた時はエフェクターも自分で作ってましたし、あと例えばコーラとかもネットで調べたら自分で作っている人がいたりするんですよね。
ーーそれが「俺はできる」とか、「世の中って思ってたほど難しくないな」っていう全能感、言い換えれば、自己肯定感にも近いと思いますが、そういうものに繋がるわけですね。
そうですね。当時の劣等感とか生き辛さに立ち向かうために、その全能感はとても役に立ちました。
世界的雑誌と誰も知らないウェブサイトをリスペクトして生まれた「死なない」
ーーさて、それからどう「死なない」が生まれていったんでしょうか?
シェアハウスしている郷田いろはさんと一緒に活動をする中で、いろいろ話したりして、彼女の考え方と、いま話した僕の体験を混ぜ合わせて、サイトにまとめてみようとなり、今の「死なない」が生まれたという感じです。
ーー何かその時に、インスパイアされたメディアとかってあったんでしょうか?
ええ。参考にしたのは2つあって。一つは『全地球カタログ』ですね。
ーースティーブ・ジョブスの著名なスピーチにも出てくる雑誌ですよね?「Stay hungry, Stay foolish」の生みの親という。
そうです。1968年にアメリカで創刊した雑誌なんですけど、名前の通り地球上のあらゆるもののカタログをコンセプトにした雑誌です。
これは当時のヒッピーとかにすごい影響を及ぼしてて、日本だと「POPEYE」とか「宝島」の創刊にもつながっていますね。
当時アメリカだとベトナム戦争があったりとか、国とか地域とかを超えたレベルで「自分たちはこれからどうやったら生き残っていけるんだろう?」という問いが発された時代だったと思うんですが、『全地球カタログ』からはそういう時代背景を反映した、この世界を生き抜いていくための思想が感じられます。
実際、商品として自分で住居を作るための道具とか、サバイバルのための本が載ってたりとか。
それが考え方として面白いなと思ったんですね。カタログなのでその場で注文すれば届くし、こういうものが現代にもあればいいなと思ったんです。
ーーなるほど、「死なない」に出てきて紹介されている商品も、大体amazonで手に入りますもんね。
そうなんです。それで、もう一つが『男の趣肴ホームページ』というウェブサイトです。
ーー「Welcome to my homepage」感すごいですね(笑)
そうですね(笑) 恐らく、webの黎明期に作られたサイトだと思うのですが、このサイトの作者が実際に自分で作ったあらゆる食品のレシピが載っているんですよね。
例えば「味噌のつくりかた」というページがあって、当然味噌のレシピが見れるんですけど、必要な材料の欄に「大豆、米麹、塩、水」とあるなかに、「塩を手作りするレシピはこちら」とか書いてあって(笑)
ーーなにそれすごい(笑)
ですよね(笑)しかも全部このおじさん一人でやっているんですよ。これもさっきの全能感につながると思うんですけど、やっぱこんだけ自分で作れるんだと思えると嬉しい。こういう情報があるっていいなと思うんです。
それでこれらに僕ら二人のの考え方や経験を掛け合わせたものができればと思って、「死なない」が生まれたんですね。
ーーなるほど、面白いですね。他にも「死なない」は#タグで、死なない方法を共有できるようにしたりしてるじゃないですか?
あ、「死なない杯」ですね。
ーーああいうのは、その隠れた「死なない」ノウハウを、みんなで共有して、一緒になるべく楽しく生きようってことなんですかね?
そうですね。やっぱり他の人がシェアしてくれるアイデアにも救われる部分があるんですよ。例えば、「死なない杯」に投稿してもらったなかに「裸足で散歩する」ってアイディアがあって。
ーー楽しそうですね、それ(笑)
この前実際に夜に公園の芝生でやったんですけど、めっちゃ気持ち良かったですよ(笑)
自分で自分を褒める。自分から巻き込む。他人に期待するより、まず自分から行くと楽になる
ーー野口くんと話していると、承認欲求みたいなものと、自己肯定感との付き合い方が本当に上手いなと感じます。
対する僕らDON’CRYの編集部員たちは、承認欲求を自分で埋めることができず他人に求めていて、自己完結できないんですよ。自分で自分を褒めるのがヘタクソなんです(苦笑)
だから、全能感を通じて、自分で自分を褒めるのは、凄いなぁ…と思います。
う~ん…やっぱり、他人って簡単には褒めてくれない気がしていて。だから、自分が褒めなきゃ誰も褒めてくれないかもしれない。そういう時、自分で作ってできたモノって、自分で自分を褒めやすいモノなのかなって思います。
ーー自分で自分を褒めるのは大切だという意識が根本的にあるんですか?
その考えはずっとあります。
いろんなことを自分から始めたりとか、自分で何か企画したりみたいなことをよくするのも、それが関わっている気がしています。
ーーといいますと?
誰かと一緒に何かしたいなと思っても、友達も多くないし、誘ってもらえなくて。それって寂しいじゃないですか。
でも、自分で開いて誘っちゃえば、それで楽しいじゃないですか。だから他人に求めず、自分でやっちゃった方が早いなってことだったんですね。
そういう考えが根本にあって、最近は大学では展示とかイベントの企画運営みたいなことをやったりとか、人を誘って自宅で小さいイベント開催してみたりとかしてみています。
ーーなるほど、何だかちへさんという方のインタビューを思い出しました。
今では1万人集まるDJイベントのオーガナイザーをやられている凄い人なんですが、スタートは20人のオフ会で。
それも、オフ会行ってもコミュ障ゆえに友達ができないから、自分で開けば友達できるだろうという発想だったそうなんです(笑)
(「コミュ障でも20人のオフ会を9500人に! Re:animation(リアニ)オーガナイザー ちへ氏インタビュー」より)
ははは(笑)
ーーつまるところ、誰かが褒めてくれないんだったら、自分で褒めてもらえる場所を作っちゃうってことなんですね
そうですね。でも、それが結果他の人が褒めてくれることもあって、結構それも大事だと思っています。
何故、就職しないという選択をするのか?
ーー野口くんが就職しないという選択肢を選んだのを聞いて、正直にすごいなと思ったんです。どうしてその選択をしたんですか?
う~ん、高い収入を得て出世することが幸せだと思う人もいると思うんですが、僕はあんまりそういうタイプじゃないんですよね。何より健康的に生きれないことが嫌なんです。精神にゆとりを持ちたいんですよね。
ーーあぁ~分かります。世代論みたいになってしまいますが、同世代にはやはり、マイホームを得たい、車が欲しい、綺麗な異性とセックスしたい、そのために仕事を頑張って会社に身を捧げるんだ!みたいな欲求がある人の方が少ない気がします。
それよりも、親友との時間とか、銭湯行ったりとか、1人で趣味に没頭する時間が欲しくって、無理に何かをしたくないんですよね。
わかります。足りないならシェアすればいい訳ですし。
ーーまぁ、とはいえ就職しない選択は大胆だと思うんですね(笑) それには影響を受けた人とかっているんでしょうか?
そうですね~……う~ん。周りを見ていると就職して楽しい人も辛い人もいて、藝大という場所柄もあると思いますが、就職しない人も普通にいるんですよね。
他にも、インターネットで色んな人を見てたりすると、アルバイトしている人もいれば、就職してアルバイトして、また就職している人もいて、正社員になるだけが選択肢じゃないなと潜在的に思っていたというのはあります。
ーー就活はしていたんですか?
しました。やっぱりしてみないとわからないと思ったので。
でも、行きたかった会社にはほぼ落ち、ある会社では内定を貰えたんですが、自分がそこで幸せに生きていける気がしなくて……。
現状の選択肢の中では、とりあえず就職しないのが健康的に楽しく生きられる近道なんじゃないかと思いました。
ーーそれが、さっき仰っていた「精神にゆとりを持ちたい」ということですよね。
そういうことですね。
ーーちなみに今は、経済的には、どうやって生活しているんですか?
「フリーランスのカメラマンとして写真撮ります!」とか「記事書きます!」「映像つくります!」とか、今持ってる自分のスキルで仕事やるよということを周りの人に伝えたらボチボチ仕事が貰え始めて、その収入からですね。
写真をずっとやっていたり、雑誌を作ったりしていたことから、ありがたいことに、写真撮ってとか、ライターみたいなことしてとかいう依頼が来て。
最近、ちょっとずつどうにかなるんじゃないかと思えてきたところです(笑)
ーーまだ自信満々な訳じゃないんですね(笑)
もちろんですよ。普通に全然お金ないですし。大学を卒業してみたら、全然仕事来なくてのたれ死ぬかもしれないですし(笑)
「一生フリーランスで生きるぞ!」と決めたわけではないので普通にバイトもするかもしれないし、良い場所があれば就職もするかもしれません。まだまだ模索中という感じです。
自分が死なないために、「死なない」を続ける
ーーこれからの目標とかってありますか?
そうですね。「死なない」をもっとオープンにしていきたいし、もっとずっと続けたいですね。
でも、続けるために頑張りすぎないってのも大切だなと思っていて、張り切りすぎると疲れちゃうので。ただ続けるためにもマネタイズをもっとちゃんとしていきたいですね。
ーーマネタイズ……悩ましいですよね。確かに最初は周囲の評判がモチベーションになるけどそれでは続かなくなるし、マネタイズをちゃんとすることでモチベーションに繋がるというのはありますよね。
お金をいただくだけのものをお出しする覚悟を決める、ということでもありますし。
それはありますね。そのままやっていても、なかなか続かないと思います。
就職しないとその分時間があるので、まだ何もできてないけど、「死なない」にしかできないものをできれば良いなと思います。
そして、最終的には「死なない」を続けることで自分が死なない状態になれればいいなと思ってます(笑)
ーー応援しています。今日はありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!
野口翔平さん(Twitter)
書いた人:ノダショー
@doncry_mag編集長。@roomiejp編集・ディレクター。みんなで健やかに生きたい。「自分の存在価値に悩んだり、冬にお茶飲んでホッとしてるような作品が大好き
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