DON'CRY -ドンクライ-

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『私はAI。加護AI。』【世にも奇妙なオタク物語】

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「自分たちオタクが登場すること」と「奇妙であること」だけがルールの短編WEB小説企画、「世にも奇妙なオタク物語」。

第2回は、ハロプロをはじめアイドルカルチャーを愛する稲田ズイキ(@andymizuki)による、ファンタジー小説『私はAI。加護AI。』をどうぞ。

 

***

 

「何度やっても加護がタバコを吸っちまう!」

22万5001回目の【タイムマサイ】。
時空を超えるオタクは、絶望に打ちひしがれて、そう叫んだ。

 

***

 

オタクの名は「織田 取夫(おだ どるお)」。2000年3月にアイドル「加護亜依」がモーニング娘。に加入して以来、加護オタクを貫いてきた男だ。

彼が時空を飛び続けるわけ。それはある加護亜依に起きた「ある事件」をどうしても避けたかったからであった。

2006年2月。東京都内のレストランで喫煙していた加護亜依は、週刊誌『フライデー』の記者にその姿を撮影される。このとき、加護は18歳。未成年であった。

この喫煙報道以降、芸能活動停止、不倫報道など、加護のアイドル人生は波乱の一途を辿ることになる。

「おい嘘やろ、あいぼん……。昔みたいに、日本の未来はWOWWOWWOWって歌ってくれや……。モーニング娘。を信じとったら、明るい未来に就職できるんとちゃうんか……。青春の1ページって地球の歴史からするとどれくらいなんや……。加護ちゃんがいないと俺の青春ゼロで終わりやないか? だって、加護ちゃんに恋をしちゃってんだよ俺は……!」

“加護ちゃんガチ恋勢”であった織田にとって、喫煙報道のショックは計り知れないものがあった。

「俺の好きだったあいぼん消えちゃったんやけどwwwwwwwwwwwww」

彼にできるのは、悲しみを紛らわせるために、2chの掲示板で草を生やすことだけであった。

織田が許せなかったのは、自分自身であった。

一般的なアイドル像とは程遠いスキャンダルを重ねていく加護亜依。その加護亜依に、自分がかつて応援していたアイドル「加護亜依」を重ねることができなかったのである。

「あの喫煙発覚さえなければ……加護ちゃんは幸せなアイドル生活を送れてたはずや……」

彼はオタクとして、ある種ねじ曲がった、悟りの境地に達していた。そして、その悟りが、彼に眠っていた「ある能力」を開眼させた。

それが、過去・未来を自由自在にジャンプすることができるオタク能力【タイムマサイ】である。

※マサイ:オタク用語。ライブ中に連続的にジャンプする応援方法のこと。

彼はオタクさながらに、飛んだ。否、オタクゆえに飛び続けたのだ。

彼が目指したのは、ただ一つ。加護がタバコを吸わない世界線を作ること。

「人生ってすばらしいって加護ちゃん『I WISH』で歌ってた。あの頃の加護ちゃんを取り戻すんや……誰よりも俺が加護ちゃんを知ってるから、誰よりも加護ちゃんを守ってあげなくちゃなんや……。行くでぇぇぇぇセクシービィィィィィィィム!!!!!」

時空転移は『恋のダンスサイト』のセクシービーム(矢口ver.)の振りコピがトリガーとなった。こうして、織田は過去へジャンプを繰り替えし、加護がタバコを吸いそうな要因をすべて排除していこうとしたのだった。

しかし、【タイムマサイ】による過去改変も、これで22万5001回目の挑戦。

それでも必ず、「何度やっても加護がタバコを吸っちまう!」のであった。

そして、なぜか加護がタバコを吸う世界線の場合、決まって、辻は杉浦太陽と結婚し、矢口は不倫し、メロン記念日は売れなかった(ただし一部のドルオタからは絶賛される)。

「何度俺はループしたら、加護を救えるんや……」

織田の肩は重かった。

 

***

 

22万5002回目の【タイムマサイ】の直前、織田は「LOVEマシーン」の歌詞を思い出していた。

日本の未来は
世界がうらやむ
恋をしようじゃないか!
Dance! Dancin' all of the night 

未来という言葉に何か引っかかりを感じて、一つの気づきに至った。

「あかんあかんあかん、モーニング娘。ダンスしてる場合ちゃうウウウウウ!!恋してたらあかんねん!!タバコ吸ってしまうのも結局、恋のせいや!!!!!日本の未来、恋なんかしてたらあかんで!!!!!!!!」

歌詞を頭の中で反芻し、出てきた答えは一つだった。

「自分の大好きなあの加護ちゃんは、もう未来にいないのかもしれへん……」

どれだけ過去を改変しても、加護は喫煙をする。もう未来に、彼の愛した加護はいないと割り切ったのだ。

この悟りに至った瞬間、彼は22万5002回目の【タイムマサイ】で、ずいぶん遠い未来へとジャンプした。

2018年、2045年、2060年・・・・

彼が到着したのは、2066年の10月。

未来に加護がいないと悟った彼がなぜ未来に?

彼には一つの狙いがあった。

 

***

 

2066年から2009年1月。

織田は未来から舞い戻り、理想をその手に入れていた。「ENDLESS KAGOAI」である。

その奇妙な形容詞が付された加護亜依こそ、織田が遠い未来を訪れ、手に入れたものであった。

「やっと……これで……安心して加護ちゃんを眺められる……」

コピーアンドロイド。2066年には人間の身体・精神などの情報がすべてデータとして保管され、そのデータに基づき限りなく人間に近づけたアンドロイドが作成されていた。

彼が行ったのは、加護の喫煙以前の生体データに基づいて、コピーアンドロイドを造ること。

これが彼の「ENDLESS KAGOAI」の正体だったのである。

「ENDLESS KAGOAI」は、入力された生体データの範囲内でしか言動をしない。喫煙をすることもない、恋愛もすることもない、アイドルの”卒業”すら存在しない。

いわば、人工知能の加護亜依「加護AI」だ。

加護AIは毎日、彼の手作りのステージの上で踊り、歌った。

「じゃんけんぴょん!じゃんけんぴょん!じゃんけんぴょん!」
「じゃんけんぴょーん!!!!」

「「おいしいのむだピョーーーーーンwwwwwwwwwww」」

織田は笑った。自分の大好きなミニモニ。の加護亜依が目の前にいるのだ。

そのときの、織田の気持ちを言葉にするなら、『I WISH』の歌詞そのものなのであった。

人生って すばらしい ほら 誰かと
出会ったり 恋をしてみたり
Ah すばらしい Ah 夢中で
笑ったり 泣いたり出来る yeah

「あいぼんありがとう、俺やっとI WISHの歌詞の意味やっとわかった気がする。俺やっと、人生って素晴らしいと思えた。つんく♂さん、こんな素敵な歌詞を作ってくれて感謝や…ありがとうつんくさあああああん♂♂♂♂♂♂♂♂」

 

***

 

半年後の2009年6月24日。異変は起きた。織田が加護AIに「W(ダブルユー)」の『ロボキッス』をリクエストした際のことだ。

※W(ダブルユー):辻希美と加護亜依の2人による女性アイドルデュオ

加護AIは「了解で〜す!」と間の抜けた声で返事をして、歌い始める。

好き好きっす キスをください
好き好きっす キスを無限大
好き好きっす キスはわかるわ
好き好きっす ロボットだっても

織田は嬉しさのあまり感極まっていた。彼にとって、加護AIはAIではなく、もうすでに「加護亜依」そのものとなっていたのだ。

ライブの後、織田は握手会のていで加護AIに話しかける。それがオタクとしての譲れない矜持だったのである。

加護AIは、もぞもぞと近づいてくる織田に話しかける。

「あ!いつもライブ応援してくださって、ありがとうございます〜。あいぼんコール聞こえてたよ〜」

「あ、どもども・・・今日も可愛かったで・・・」

織田はいつもこんな感じで加護の前では「シュン」となる。

「あのぅ。ロボキッス歌ってたらいつも思うんですけど、好きってなんなんですかね?」

「す、好きって、え・・?」

彼は少しドキっとした。

もしかして、あいぼんが俺のこと・・・?桃色の片思いって、もしかしてそういうことかつんくさああああん♂♂♂♂♂♂ しちゃってる胸がキュルルンってしちゃってる これまさに桃色のファンタジィィィィィィイェイ

 加護はポツポツと語り始めた。

「実は歌手になりたいと思ったのはね、小学校3年生の時に松田聖子さんのライブに行ったのがきっかけなんです。『赤いスイートピー』をママに教えてもらって、子供の頃からずっと歌ってたの」

加護は少し照れながら、「赤いスイートピー」を歌い始めた。

春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ
タバコの匂いのシャツに そっと寄り添うから

この歌詞を聴いたとき、織田は桃色のファンタジーから解き放たれ、嫌な予感を感じ始めていた。

「昔からこの曲大好きでさ。好きって言葉聞いたら、なんだかタバコの匂い、思い出しちゃうんだよね」

この瞬間、織田の心のラブマシーンは完全にエンストした。

「タバコおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお大嫌い大嫌い大嫌い大好きと言いたいけど、大嫌いあかんあかんあかんデェェェェェェ」

織田は思わず、手元にあった飯田圭織ソロ写真集『かおりKAORI圭織。』で加護AIを殴打した。

打ちどころが悪かったのか、加護AIは床に仰向けに倒れ、体をガタガタ動かし、口をパクパクさせている。

「お前は加護ちゃんなんかじゃないんや・・・」

加護AIはガタガタ動きながら、あるポーズをとり始める。

「か・・ご、ちゃん、です」

https://img.gifmagazine.net/gifmagazine/images/2083905/original.gif

加護AIは狂ったように、『ミニモニ。テレフォン!リンリンリン』の「加護ちゃんです」を繰り返した。

「か・・ご、ちゃん、です」

まるで織田に自分の存在を伝えるように。

「か・・ご、ちゃん、です」

まるで自分で自分の存在を確かめるように。

「やめろ!お前はいつかタバコを吸ってしまう!もう俺の知ってる加護ちゃんやないんや!」

道重さゆみ6th写真集『20歳7月13日』で二度目の殴打を加えようとした瞬間、

「そろそろいい加減にしておきな!」

織田の前に何者かが現れた。

 

***

 

その者とは、「加護亜依」であった。

この時代には、加護亜依はここにいる加護AIと本物の加護亜依しかいないはず。そして、本物の加護亜依は今、不倫報道から復帰後初のシングル『no hesitAtIon』のリリースイベントをしているはずであった。

それに、この加護亜依、見た目は加護亜依だけど、何かが違っていた。

「あ、あ、あ、あなたは加護ちゃん??????」

「その通り。加護ちゃんです」

『ミニモニ。テレフォン!リンリンリン』の「加護ちゃんです」とは程遠い、酒灼けした声で彼女はそう名乗った。

彼女が語るには、

・自分は1万2000年後の未来から【タイムマサイ】でやってきた1万2021歳の加護AIであること。
・オタク能力は、未来では人間ロボット問わず誰もが当たり前のように使えていること。(他にも、空間を切り裂く【空間ケチャ】、物質を再構築する【素粒子MIX】など)

ということらしい。

織田の気持ちは、「未来からやってきた加護AIなんて信じられるわけがない」が半分、もう半分は、1万2021歳と自称する加護AIから発せられる”仙人”にも近いオーラに心がドギマギしていた。

「なぜ俺の目の前に現れたのか?」
そう織田が口を開くより早く、加護AIは質問を繰り出した。

「あなたが最初に時空を飛んだのはいつ?」

織田は答える。

「2009年3月6日や。加護ちゃんの不倫報道があって、【タイムマサイ】を発動させた。」

ハァとため息をつき、加護は続けた。

「つまり、あなたは私の歌を聴いていないのね?」

「聴いてたわ!俺はいつだって、あいぼんの歌ばっかや!」

「私が初めてジャズを歌った日をあなたは知らないわ。2010年2月16日のことよ。」

織田は困惑した。

ジャズ・・・なんでアイドルのはずの加護ちゃんがジャズなんか・・・

「あなたが過去に飛んだ後、私の交際相手は逮捕された。」

「交際相手は暴力団がらみの人だったわ。私はそんなこと知らなかったけどね」

織田はうつむき、言葉を失う。

「薬を大量に飲んで、自殺未遂もしたわ」

やめてや・・・

「事務所ともめて、加護亜依という名前で芸能活動もできなくなることもあった」
「AV出演の話だって、何十件も来たわ」

もうそんな話聞きたくなんか・・・

「でもね。」

加護は続けた。

「そんな私の心をジャズは自由にしてくれた。アイドルとしてのキャリアが崩れていく経験も、悪い男に騙された経験も、死にかけた経験も。歌手になりたかったあの頃の気持ちも。大人の人に憧れてたあの頃の気持ちも。ライブでファンの人の前で初めて歌ったあの頃の気持ちも。人生の酸いも甘いも、ジャズはすべて”声”に変わる。こんな無茶苦茶な人生の私をジャズが救ってくれたの。」

織田は加護AIの話を理解していた。でも、彼の中のオタクの心が、「恋をしちゃいました!」で恋をしちゃったガチ恋ソウルが、その理解をどうしても受け入れようとしなかった。

「だって……加護ちゃんはアイドルで……俺の大好きなアイドルで……なんで、なんでや……」

加護は言った。

「宇宙のどこにも見当たらないような約束の口づけをあなたはまだ知らない。」

「そ、それは・・・「Do It Now」の歌詞やないか。つんく♂が書くいつものわけわからん歌詞やんか!それがどうしたんや!」

加護はスゥッと息を吸った。

加護の声に空間が包み込まれた。

Blue moon
Now I'm no longer alone
Without a dream in my heart
Without a love of my own 

「これがジャズなんかいな・・・」

その歌は不思議であった。
少女のような可憐さと、大人の女性としての強さが同居していた。

With music and words I've been playing
For you I have written this song
To be sure you known what I'm saying
I'll translate as I go along
Fly me to the moon 

織田の目からは涙が溢れていた。

加護の歌声は、今まで自分が聞いていた加護の声とは違っていた。テレビから聴いていた加護の声とも、加護AIの声とも違う。タバコ事件に始まる様々な人生の苦渋が、歌声とともに押し出されていたのだ。

自分は、21歳以降の加護亜依を知らない。ましてや、1万年後の加護亜依なんて未だに想像もできない。

でも、彼女の口から溢れるその歌はその全ての”時間”を包み込んでいた。自分が作った虚像ではなく「加護亜依」という一人の人間がそこにはいたのだ。

「俺は加護ちゃんのこと何もわかってなかった。ちゃんと、彼女を知ろうともしなかった。自分で勝手に決めつけて、勝手に檻に綴じ込めて。俺はなんてことをしてたんや……」

後悔でいてもたってもいられなくなった織田は、ただただ加護の歌をかみしめることしかできなかった。

 

***

 

歌い終わった加護AIは話しかける。

「あなたに頼みがあるの。私がモーニング娘。に入らないように過去を改変してほしいの。」

織田はライブで枯れた涙をもう一度沸かせた。

「なんで……あいぼん……なんでそんな悲しいこと言うんや……?」

「私はね、いろんな事件でたくさんのファンを悲しみませちゃった。だから、もう誰も悲しませないように、モーニング娘。に入ったという事実を消してほしいの。」

加護AIの言っていることはたしかだった。織田は加護のスキャンダラスな人生に耐えられず、過去改変だったり、「ENDLESS KAGOAI」を作ったりしたからだ。

「でも、でもそんな、俺は加護ちゃんに会えたさかい、こんなに加護ちゃんのことを好きになれたんやで・・・」

「私は歌が好き。松田聖子さんを見て以来、私は歌手に憧れた。そして、1万年経った今もジャズシンガーとして、歌を歌っている。モーニング娘。に入ってなかったとしても、絶対どこかで歌を歌っている。歌があるから、絶対いつか会えるよ、織田さん。」

加護はある歌を紹介した。

「これはモーニング娘。が今よりもう少し先の未来に歌う曲。」

私はまだね未完成
遠い過去から君を待つこの世で出会えると信じ
君を待つ

 「時空を超えて宇宙を超えて私たちは出会えるよきっと。」

加護の言葉を聞き、涙が止まらなかった。
それはもう、涙ッチ。涙止まらぬ涙。
加護亜依への愛のスキスキ指数が、超上昇した。
目の前の加護を、愛ゆえに抱きしめかった。
21世紀のLOVE REVOLUTIONが今まさに起きようとしていた。

でも、彼は意を決していた。

「うワァァァァァァッァァぁありがとう加護ちゃんあいぼんあいぼんあいぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん」

悲しみを超えて、織田は【タイムマサイ】を発動させた。加護亜依のモーニング娘。加入を防ぐため、過去へと再び飛んだのだ。

時空を駆け巡りながら、彼の脳裏に浮かんだのは『時空を超え 宇宙を超え』の歌詞。

「時空とか宇宙とか、僕が知ってる頃のつんく♂さんの世界観とはちゃう感じや……もしかしたら、つんく♂さんも俺と同じように時間を……?」

どんな時代も、オタクの妄想とジャンプが止まることはない。

 

***

 

「何度やっても加護がモーニング娘。に入っちまう!」

2345万回の【タイムマサイ】。
時空を超えるオタクは、またもや絶望に打ちひしがれながらそう叫んだ。

「なんでや、なんで加護ちゃんは絶対モーニング娘。に入ってしまうんや?」

「エヘヘヘーン教えてあげよっか?」

後方から一人の少女の声。

「のんが、あいぼんとの絆、そんな簡単に切らせるわけないじゃん!」

1万2021歳の「辻AI」が目の前に現れた。

 

(おわり)

 

書いた人:

 

 

 

もう一つの"世にも奇妙なオタク物語"はこちら。

 

【Dr.ゆうすけの生きづらさ診療所】作品を「逃げ場」にすることはメンタルヘルス的にも正しい

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こんにちは、編集長のノダショーです。

「なんとなく生きづらい…」
「どこか閉塞感を感じる…」

これらの問題に、一体どう向き合っていけばいいんでしょうか?

しかし、なかなか自分で答えを探すのは難しいもの。

そこで、Twitterで人気の医師、Dr.ゆうすけさんに、その考え方や解決法を伺っていく新たなインタビュー連載、【Dr.ゆうすけの生きづらさ診療所】が始まりました。

Dr.ゆうすけ

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メンタルヘルスがライフワークの内科医。

身近な人の「死にたい」とか「生きにくい」と触れあって感じたものをことばにするのが好き。

スプラトゥーン2は黒ZAPを愛用。総プレイ時間730時間で、ウデマエS。

好きな言葉は「勇者とは、勇敢な者ことではなく、人に勇気を与える者のことだ」

 

「現世は高コストである」と気づくべき

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ーー初めまして。これからしばらくDr.ゆうすけさんの診療所でお世話になります、患者のノダショーです。よろしくお願いします。

はい、よろしくお願いします。

ーー早速ですが、Dr.ゆうすけさんは「逃げ場」としての作品の力にフォーカスされていると思うんですよ。

ドンクライは作品、大きくいえばオタクカルチャーによって生きやすくなった人々が集まっている。

なので、「逃げ場」としての作品の力は身に沁みています。

でも、メンタルヘルスの観点からも何故よいのか、というのは分かっていないんです。

なるほど分かりました。では、いくつか理由があるので、整理しながらお話しますね。

 

脳の負荷を下げることができる

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まずですね、作品の価値として、脳の負荷を下げるというものがあります。

精神科医の名越先生という方が仰っていることなんですけど、普通の人間関係を保つだけでも、脳の負担というのはすごく大きいんです。

ーー例えば、どういうことでしょうか?

そうですね。空気を読んで、察して、そして24時間誰かに見られているっていう状況の中で、人間関係を維持するっていうことですね。

その情報処理コストが高くなりすぎて、それだけで人というのは、実はすごく疲弊してしまっているんですよ。

例えば、流行っている「※マインドフルネス」というのはそれをミニマイズするものだと思うのですが、例えばゲームだって同じようなもの。

※マインドフルネス:今この瞬間の自身の精神状態に深く意識を向けること。またそのために行われる瞑想。2010年代半ば頃からストレス軽減や集中力の向上に役立つ心的技法と見なされ、特に欧米の企業を中心に社員研修などに採り入れる動きがある。(goo国語辞典より引用)

ーーえ、ゲームがですか?

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ええ。内容にもよりますが、一人でゲームをプレイしている最中にやり取りをしてる情報量っていうのは、普段、他者との関係の中でいろんなことを考えなければいけない量よりも、かなり少ないと思われます。

放っておいたらあっちこっちいってしまう思考も、オーバーヒートしている脳も、ゲームを始めればやることはまず「歩く」こと。

単純な目的があって、そのための行動が一歩二歩三歩っていう単純な情報に落ちる。

ーーなるほど、確かに処理する情報が一気に減りますね。

LINEとかSNSを見ないから、気を遣わないし、それでいて楽しいから一気に時間が過ぎてしまっていたり…。

ええ。脳がオーバーヒートしている状況が、プレイにより少し和らいでいる、ということがあると思います。

ーー確かにそうですね…。心地よい疲れだけが残っていたりします。

 

苦しみを客観視して、解決に向かうことができる

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他にも、作品の力として、苦しみを客観視させ、解決に向かわせる力というのもあります。

苦しいことや悲しいことって、自分の人生が一回きりしかない中で、自分だけに今起こっていることだから、客観視できないんですよ。

だからすごく苦しい。苦しいけど、その苦しさはずっと自分だけに続いている。

なので、いつまで続くかもわからなければ、何に苦しめられているかも分からない。

ーー分かります。僕も高校時代、クラスと部活の全員からハブられたり、攻撃されたりしたことがあります。

でも、生まれて初めてのことだから、ただただ呆然として、2週間くらい自分の感情がどうなっているのかさえ把握できなかったことがあります。

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ええ。でも、そういう時に、例えば小説とか映画で、似た状況に苦しんでいる人を見ると、自分の苦しみに輪郭が与えられるんですよね。

そうすると、「あ、自分の苦悩ってこういうことだったのか」って気づける。

そうやって輪郭が与えられると、理解不能なストレスを、理解可能な課題へと進化させることができるんですよ。

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(出典:amazon / ©白泉社)

ーーあぁ…すごく腑に落ちました! 僕の場合、『彼氏彼女の事情』というマンガがその役割でした。

過去に親から虐待を受けた主人公が、「愛されなかったから苦しかった」と思っていて、僕も自分の苦しみがそうだと思っていたんです。

でも、本当は「愛したかったけど、愛されなかったから苦しかった」ことに気づく。

つまり、ただ放置されるなら乾いていくだけだけど、愛したいという感情に対して「拒絶」と「攻撃」をぶつけられたから、その何倍も苦しめられたということだったんです。

なるほど! それも、誰かの苦しみを通じて、自分の苦しみが客観視できるっていうことですね。

精神科医の熊谷先生という方が、「あるとあるが出会ってであるあるになる」と仰っているんですが、そんな風に、客体視することができて初めて人は課題として対峙できるようになるんです。

ーーまさしく、あの体験は「あるとあるが出会ってであるあるになる」でした。

どこか、病名がつくのにも似ている気がします。

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確かに、似ているところはあると思います。病名がつくことでショックを受けたり、辛くなってしまうこともあります。

けれど一方で、自分の苦しみに「説明」がつくことで「自分だけじゃない」と救われる部分は少なからずあるなと思っています。

苦悩の正体がわからないままだと、「今苦しい。この先どうなるんだろう」っていう不安を抱えて、先の見えないトンネルの中に入り込んでしまう。

でも、病名がつくことで、それがどれくらい長いトンネルかがある程度予想がつく。

つまり、輪郭が与えられているんだと思います。作品というのは、それを行ってくれるんですね。


「陰性感情」を感じ切って、浮上を早めてくれる

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(出典:amazon / ©キングレコード)

ーー他にも、僕は就活で50社落ちて半年くらい引きこもりになった時期があるんですが、その時は『新世紀エヴァンゲリヲン』に強烈に傾倒していたんです。

なんというか、とにかくダウナーになりたかった。それはなぜなんでしょうか?

そうですね。まず、そういう感情のことを「陰性感情」と呼ぶんですが、陰性感情というのは感じ切ることが大切なんです。

ーー感じるだけではなく、「感じ切る」ですか…?

ええ。精神科医の名越先生の言葉に「感じてはいけない感情はない」というのがあって。

というのも、追い詰められた人は「この感情は感じてはいけないんだ」と感情を認めず、押し込めてしまいがちなんですよ。

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僕はこれを「樽に押しこめてしまう」と呼んでいるんですが、例えば、虐待を受けてる子どもとかに結構多いんです。

自分がいま「悲しい」とか、「とても傷ついてる」とかっていうこと自体を、感じていないように振る舞ってしまう。

でも、彼ら彼女らは、一時的に感情を樽に押し込めてるんだけなんですよ。ほとんどの場合、その環境を生き抜くためにやっていることなんですけど…。

でも、それが続くと樽の圧が高まりすぎて、どこかで爆発してしまう。

その結果、いきなり気持ちが不安的になったり、ガタガタ震え出したりとかっていうことが起こるんです。

ーーすごく怖いですね…。それって、行き過ぎてしまうとどうなるんでしょうか?

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「複雑性悲嘆」という、負の感情による不調が何年も抜けないような状況になってしまうこともあります。

虐待もそうですが、例えば、何か大切なものを失ってすごく悲しいときに、それを感じ切らないままでいると、そうなってしまう可能性があります。

その樽の中の圧を下げるカタルシス体験として、作品は重要な一役を担っていると思います。

ノダショーさんも、就活で落ち続けたことが本当は無茶苦茶悲しいけど、その悲しい気持ちっていうのを多分ずっと押し込めてきた。

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ーー確かに…ある朝、突然全てに対するやる気がなくなって、起き上がるのも億劫になってしまいました。

でも、そこで「ダウナーにどんどんなってきたい」っていうのはそれを解放させたいっていう気持ちのあらわれかもしれない。

陰性感情をエヴァに傾倒することでガッツリ感じ切れたことが、そこから浮上してくるのにうまく作用したというのはあると思います。

ーーなるほど…まさしくその通りです。同じように、ある朝「そろそろ部屋から出ても大丈夫な気がする」ってなる時が来たんです。

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他にも例えば、失恋した時にユーミンとか、aiko の失恋ソングとかを聞いて浸り切るっていうこともいいと思います。

それがその後の浮上を早めることになるんですよね。

ーーなるほど。「悲しい時は悲しい曲を聴きたくなる」っていうのはそういうことだったんですね。

ええ、そういうことなんです。

ーーでも、逆を言うことを言う人もいるじゃないですか。「悲しい時こそ明るい曲を聴け」とか。

悲しみの大きさによるので一概に言えないですけど、ものすごく大きな悲しみを体験したときは、間違いと言っていいんじゃないかと思ってます。

ーーやっぱりアレは間違いなんですね。

間違いだと思っていますよ。一番しんどい局面で自分の悲しみの感情を認めなかったことで、その心のダメージが後々まで尾を引いてしまう危険性がある。

大きな喪失の体験があったら、悲しみの感情をちゃんと浸り切った方が最終的な回復は早いとは思います。

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(出典:©dアニメストアより)

ーー他にも、日常アニメがないと生きていけなかったりするんですけど、これはゲームに近いのかなと思いました。

いろんなことを感じたくない、世界観に浸り切りたい、脳みそをもう使いたくないっていうか。

それはあるんでしょうねぇ。現実でも人格を使い分けたり、オンラインゲーム上の人格もリアルと使い分けたり、Twitterのアカウントも複数使い分けたり、何でしょうね…その…現世って高コストですから(笑)

ーー「現世は高コスト」(笑) ははは、すごい名言ですね。

あぁ…なんだか気持ちが楽になったような気がします。ありがとうございます。

それでは、次回はより具体的に「生きやすくなるための技術と経験の身につけ方」について伺えればと思います。よろしくお願いします。

ええ、それでは来月、また来てくださいね。お待ちしています。

先生:Dr.ゆうすけ

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患者:ノダショー

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現実ツラいからVRの世界に憧れたけど、それで本当に幸せになれるんだろうか?

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初めまして。餅男と申します。

突然ですが、皆さんヴァーチャルライフを楽しんでいますか?

VRゲーム、VR動画、Vtuber、VRchat……。

2018年を生きる僕ら近未来オタクの周りには、ヴァーチャルリアリティ《VR》を利用したコンテンツが日々増え続けています。

冷たくて息の詰まる現実と違って、ヴァーチャルの世界は自由で楽しくて、まさに楽園のようだと感じる人も多いのではないでしょうか。

 

ネットに溢れる「VR肯定」への疑問

例えばTwitterには、肉体を捨てて完全にヴァーチャル化することへの憧れや肯定がたくさん見られるようになりました。

僕自身、VRに没入する度に「自分の体が邪魔だな…」「理想のヴァーチャル美少女アバターに早いとこコンバートしたい」と感じてしまいます。

でも、そんな思いで心が溢れそうになる度に、僕は、記憶の中のとある赤毛の少年を思い出して我に返り考えるのです。

ヴァーチャルになるって、本当に”幸せ”なのか?と。

 

ヴァーチャル内の幸せな時間と、その後の虚無

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人を楽しませるVRのコンテンツは多々あれど、僕が一番先に飛びついたのが「VRAV」 。これです。

いつも画面内にいるはずの「紗倉まな」が目の前に…!

男なら一度は憧れる夢の世界。これを知ったらもう戻れない禁断の娯楽です。

さて、ある日、寝転んでヘッドギアを被りヴァーチャルラブに勤しんでいる最中に興奮で錯乱した僕はある可能性にたどり着いたのです。

「今なら紗倉まなに触れられるのではないか?」と。

だって目の前の彼女はあまりに鮮明で、部屋の消臭剤すら彼女の匂いに感じられるんです。

何かが振りきれて「まなぁ!!」と声に出しながら体を起こした時、VR内では広いキングサイズのベッドに寝転んでいるはずの僕の足がガンッという鈍い音と共に、存在しないはずの何かにぶつかりました。

「あ“ぁ”ッーー!?」

激しい鈍痛にのうち回っていたら、今度は謎の液体が足を濡らす。

「なんぞこれ!?」と慌ててヘッドギアを外す。愛し合っていた彼女は消え去る。

そして、そこにあったのは、薄暗い部屋と、蹴飛ばしてズレたこたつ机、PCと僕のスネあたりを濡らすこぼれたお茶だけ……。

え…全ては…仮想…? 彼女の香りは消臭剤…? 

紗倉まなは、現実じゃ…ない…?

下半身裸のまま持っていたティッシュでお茶をふき取り、自分の代わりに逝ってしまったマウスに黙祷を捧げた時に、僕を襲ったえげつないほどの虚無感。

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そしてこの虚無感はVRAVを楽しんでいる時だけでなく、輝夜月や月ノ美兎のようなVtuberたちの配信などを楽しんでいる時にも襲ってくるようになりました。

楽しそうにポリゴンの体を揺らし、魅力的な笑顔と共感できる話題で僕たちを夢中にさせる彼女たちを知れば知るほどに”触れてみたい”と感じ、どうしたって触れられないという現実にやられる。

そう、現実の肉体を持っている限り、このジレンマは解消しない。

それを悟った僕は、「ヴァーチャルになりてぇ」「肉体全部データ化してぇ」と願うようになりました。

『マトリックス』とか『アクセル・ワールド』とか『楽園追放』みたいな世界に憧れたのです。

 

でも、ヴァーチャル化って本当に幸せなんだろうか?

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でも、ある時ふと疑問に思いました。

VR紗倉まなや月ノ美兎に触れたい、触れてみたいと感じる自分。

その理由は、自分以外の他者を抱き締めたり、手を繋いだりしたときの、他者の体の柔らかさや温かさを知っているからなのではないだろうか?

だからこそ、彼女たちにも求めているのではないか?と。

そう、僕は他者に触れたときの「肉体感覚」を失ってしまうのが怖いんです。

オタク同士意気投合した時に思わずしたハグの、あの硬くて熱い感覚…。

初めて好きな子(アイドル)に握手した時のあの信じられない柔らかさ…!

そういう大切な感覚を失うことって、その先にどんなメリットがあったとしても「何か寂しい」と思うのは僕だけなのでしょうか…? 

 

そして僕らは他者への関心をも失うのでは?

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加えて、肉体があったからこそ抱いた”触れたい”という気持ち(欲望)すら、僕は忘れてしまう気がするんです。

つまり、もし自分をアバター化して、理想の姿に自由にカスタマイズできた時、僕たちは他人に今ほど興味を持てるのでしょうか?

“触れたい”とか”話したい”っていう他人への欲求って、自分に足りないモノを持ってる存在への憧れだとも思うんです。コンプレックスがそうであるように。

だから、皆がそれぞれ理想のアバターになって、自分の理想もコンプレックスも全て超越したその時…

関心は自分へ行き、他者への憧れという感情は、少しずつ無くなってしまうのではないか?

そうしていつか、他者への関心そのものもなくなってしまうのではないか?

例えば、僕は理想の黒髪セミロング吊り目スレンダー美少女の体になりたい。

でも、もしそうなれたら、他人より自分ばかりを好きになっていきそう…。

つまり、ヴァーチャル化することで、他者がいるからこそ存在した感触や関心・興味を失った時、僕らは他者を必要としない。

でもそれは、完全で自己完結し、同時にとても孤独な存在なのではないか?

それに僕は今勝手にビビってるんです。

ヴァーチャルに逃げたい…。でもその未来が怖い…。でもやっぱ現実クソ辛い…。ヴァーチャルに逃げたい…。でも…。

こんな堂々巡りに入る度、僕はあるアニメの主人公のことを思い出します。

 

ゼーガペインは現実を肯定した

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(出典:Amazon/ バンダイビジュアル)

ヴァーチャル化と聞いて僕が思い出すもの、それは『ゼーガペイン』というアニメ。

2006年に放送されたサンライズ製作のSFロボットアニメ。

このアニメの肝となるのが、人類は既にガルズオルムという敵の組織によって全滅し、一部の人間が世界各地に作られたサーバーの中で、データ体として生き延びながら戦っているという設定です。

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主人公のソゴル・キョウは物語序盤で自分がデータ体であることを知り、何度も絶望しかけます。

しかも、キョウは現実世界には恐ろしい敵が蔓延っていて、このサーバーの中にいれば安全で幸福な毎日が続くことにも気づいている。それでも、彼は戦い続けるのです。

あるエピソードで、キョウに対してラスボス的存在がこう言います。

(ヴァーチャルは)地獄ではない。”神の国”だ。

肉体に縛られず永遠の命を持った我々は、観測者からすると神と同じではないかね?

元々生身の人間も量子の集合体だ。量子データに置き換えても、同じ生命活動を営むことはできる。 

しかし、サーバーで生き続ける提案に対してのキョウのアンサーがこちら。

サーバーで無限の時を生きるのもアリだろうけど、自分には本物がやけに眩しかった。

この本物の世界とガチンコで触れ合いたかった。そのためなら限りある命でもいい。 

ヴァーチャルを否定するわけではない。

でも、それがもたらす痛みや辛さの無い幸福よりも、本物の人や自然、世界そのものとの繋がりを選ぶ。

これが強者の意見だと考えたこともありました。彼は主人公で強い人だからこう思えるのだ、と。

でも、どんな絶望的な状況からでも諦めず這いつくばってきた彼の眩しさが心に焼き付いて消えないのです。

ヴァーチャルという世界に逃げ込みそうになる度に、僕はキョウに「諦めんじゃねえ!」と背中をブッ叩かれている気さえする。

僕がヴァーチャル化に対してどこか疑う気持ちがあるのは、こんな眩しい彼を知っているからだと思います。

 

けど、ビビりの僕は結局…

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(レディ・プレイヤー1 公式サイトより転載)

僕はヴァーチャルになりたいという願望を否定したいわけではありません。

僕自身、現実クソキツいし友達は少ないしモテないしで、早くヴァーチャル化したいと願うことの方が多いです。

でも同時に、完全なヴァーチャル体になった時に失うかもしれないモノに、寂しさも感じる。

あのスピルバーグも、この現実とヴァーチャルをテーマにした『レディプレイヤー1』という映画を撮り、この現実とVRとの関係についての問いを僕たちに投げかけてきました。

現実はクソ? ヴァーチャルは幻? どっちが幸せ?

とはいえ、僕もキョウやスピルバーグみたいに、キチンと「こっちが正しい!」と言葉にすることができていません。

でも、ゼーガや映画の世界ほどVR技術がまだ進んでいない、VR過渡期の今。

もしかしたら現実とヴァーチャルは、互いに足りない幸せを補完し合う関係でいられるのかもしれない。

ヘッドギアを付ければ、ヴァーチャルを楽しめて、外せば誰かに触れられる。

ヴァーチャルに憧れ切ることのできない僕を、”にわか”と言いたくなる人もいるでしょう。

でも、僕は世界で一番ゼーガペインというアニメが好きだから、現実に焦がれるキョウのエールも、無視することができない。

 

皆さんは、現実とヴァーチャルにどんな想いを持っていますか? よければ意見を聞かせてください。

それでは。

 

書いた人:

涙も笑いもあるんだよ。『よりもい』オフでまた一つ生きやすくなってしまったよ…

僕たち私たち、生きづらいオタクたちの心を鷲掴みにした作品、『宇宙よりも遠い場所』通称『よりもい』。

 

イベントも行った本作品を3日に渡って振り返ります。

 

最終回は30人近くが参加したイベント『よりもいオフ』の様子をお届けします。

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どうも!編集長のノダショーです。

やりました!やったんですよ!KAI-YOUと!『宇宙よりも遠い場所』、愛称『よりもい』オフ。

まぁ、エモい集まりになるんだろうなとは予想してたんですが案の定…。

登壇者は喋りながら泣き出すわ…それを見て聴いてくれてる人も泣いちゃうわ…。

大好きな『よりもい』について、こんなに語れる場所があったことに僕自身が感謝感激雨あられなんですよ…。

 

語りたい欲を高めるトーク

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始まりは、KAI-YOU 藤木涼介さん発案にして、この日のスローガン『よりもいは感情』を乾杯の音頭にしてスタート!

30人近くが普段はDJイベントなどが行われるクラブ・バーで、

「「「よりもいは〜〜〜〜〜感情〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」

と叫ぶ様子は、異様にして圧巻。そして最高!

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次々上がる登壇者が話すテーマはよりもい広く、深くカバーしていきます。

 

『よりもい』が人生を救う理由

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例えば、先日出た記事『人生迷子になったら黙ってアニメ「宇宙よりも遠い場所」を見てくれ』も掲載された人気ライター/編集者、鈴木梢さん。

そのテーマは、「よりもいが人生を救う理由」

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具体的で、カッコをつけないスライドには、

「わかる!」

「それ!」

「あぁ〜〜〜〜…!(声にならない共感)」

などの叫びが会場にこだまし続けるほど!

 

何者にもなれないと決めつけるすべてのめぐっちゃんなお前らへ

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さぁさぁ他にも、KAI-YOUのおんだゆうたさんのテーマは、「何者にもなれないと決めつけるすべてのめぐっちゃんなお前らへ

「失敗したら立ち直れないからな」

「本当に大丈夫なのか?」

などなど、エルシャダイもびっくりな心配性っぷりでキマリを常に引き止めつつ、その心は何者にもなれない代表のような彼女。

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斜に構えた態度や、何もしてないのにエラそうな感じ、漂う“わかってる感”、社会を知っている風(高校生)などなど…。

その姿にどこか苛立ちを覚えるところがあるかもしれません。

でも、今にしろ過去にしろ、どこか僕らと重なる部分もありません…? それ、同族嫌悪では…? 会場からはその具体例が上がるたびに、

「「「やめろーーー!!!」」」

という絶叫もとい断末魔が聞こえる(笑)

それでも、涙を流し、自分の弱さを認め、「絶交宣言」を行う彼女。

「何者にもなれない」と決めつけ共感していた僕たち私たちは、その姿と最終話の「北極」で突き放され、「お前は僕(私)たちと同じだったはず…なのに…」と絶望に叩き落とすのです。

さてさて、「ざまぁみろ〜〜〜〜!!!」の大合唱なども行いながらあっという間に時間は経ち、懇親会へ突入!

 

好きなシーンとキャラトークがはかどりまくる!

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ここからは参加者同士の語り合いで会場は一気にヒートアップ!

「俺はこのシーンが好きなんだけど…」「わかる!」「おぉ〜〜〜マジか〜!」

「私、あのキャラのああいうところに共感してしまって…」「あぁ〜私も…」

などなど、もう各々が自分の『よりもい』愛をぶちまけるぶちまける(笑)

ドンクライのイベントはいつもそうなんですが、なんらかの作品に救われていることが分かってる人同士だからこそ、相手の好きをみんな否定しないんですよね。

だからこそ、すぐに握手したり、好きなアニメを当てあったり…。

もう5足飛びくらいで仲良くなってましたね…。

 

人気投票で楽しさブースト!

途中からはキャラ人気投票の結果発表もあり、盛り上がりは最高潮!

何よりも、驚くことに第1位は同率!!! 予想はつくと思うのですが、このコンビ!

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ちなみに3位はゆづき、4位がキマリ! 

そして第5位には…隊長がくるかと思いきや、妹の玉木リンちゃんがランクイン(笑)

なぜか、そのキャラを好きな人が受賞コメントをみんなの前で行って大喝采がおきるという現場もエモかった!

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他にも、イラストを見せてくださる方がいて盛り上がったり…。

結局、次に行きたい有志が集って3次会まで行われる始末…。開始が16時、終わったのは24時。実に8時間…壮絶でした…。

 

参加者の感想はいかに?

とはいえ、参加者の方目線ではいかがだったんでしょう?

ツイートしてくださった方が何人かいらっしゃったので、一部ご紹介!

個人的に一番嬉しかったのは、毎度のことながら、今回もイベントにきてくれた参加者同士がTwitterで繋がってリプを飛ばし合っている光景を見れたこと!

ドンクライは生きづらさや閉塞感を感じている人が繋がり合うことで、その苦しさを和らげることが目的の場所なので、僕はこういうのが一番素敵だなと思うんですよね。

脱線だってしたっていいし、辛かったことを話したっていい。

僕も2次会では30分くらい初対面の方々と『秒速5センチメートル』の話してたし、それにまつわるトラウマも語り合ったり…。

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そうやって、参加した人同士が仲良くなって、世界が少しずつでも生きやすくなったらいいなと思うんですよね。

そんな訳で、次のイベントは1ヶ月くらいしてからまたやりますよ。お目見えできますと嬉しい限り! それではっ!

一部画像の出典:アニメ『宇宙よりも遠い場所』公式サイトより

書いた人:ノダショー

twitter.com

「私の友達を傷つけた代償だよ!」『よりもい』11話ラストでなんでこんなに泣いちゃうの?

僕たち私たち、生きづらいオタクたちの心を鷲掴みにした作品、『宇宙よりも遠い場所』通称『よりもい』。

 

イベントも行った本作品を3日に渡って振り返ります。

 

第2回は編集長のノダショーです。

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最終話も最高でしたね。本当にいいフィナーレ。今日はずっと彼女たちの10年後の妄想をしてた。日向ちゃんはきっと弁護士。異論恋。ってそんな話はいいんだよな。俺が話したいのはとにかく11話なんだ。

 

何でこんなに泣いちゃうの?

泣く。11話と聞いただけで日向の「しらせ…ぇ〜〜〜…」の泣き顔がフラッシュバックして涙腺をダイレクトアタックしてくる。もう多分10回くらいこのシーンを見直してるんだが毎回泣く。

俺の涙腺なんかバグってるの?遺伝子に何か組み込まれてるんじゃないかってくらい精緻に毎秒0.5mlの涙を流してる。顎をガクガク震わしながら、うえっ…うえっ…って嗚咽がとまんねぇんだよ。

でも、脱水症状になりかけながら鼻水をスコッティしてると「何でこんなに泣いちゃうの?」って疑問を持たずにはいられねぇんだ。

 

傷つけられて怒って欲しい

私は日向と違って性格悪いからハッキリ言う。あなたたちはそのままモヤモヤした気持ちを抱えながら生きていきなよ!人を傷つけて苦しめたんだよ。そのくらい抱えて生きていきなよ!それが人を傷つけた代償だよ!私の友達を傷つけた代償だよ!

しらせちゃんのこのセリフを書き出してるだけで涙こらえた喉の筋肉が痙攣してんだけど、特に破壊力が高いのって「私の友達を傷つけた代償だよ!」の部分で間違いない。

ここでダムのギリギリまで水量が急増して、呼応するように日向ちゃんの泣き顔でンドバアァーーー!!!ってなるんですわ。こんな神コンボなら1万発でも喰らいたい。

それで、これがこんなに効いちゃうのって、心のどこかに自分が傷つけられたことで、誰かに怒って欲しいっていう気持ちがあるんじゃないかって思うんですよ。

 

人間そんなに抱えらんない

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『よりもい』に限らず、だいたいキャラが親友のために「アイツはなぁッ!」ってブチ切れるシーンで俺は泣いちゃうんだけど(『ここさけ』の野球部の親友とか)、それってやっぱ願ってるんだろうな、って思うんですよ。誰かが自分のことを見てくれていることを。

大人になると気づいてくるんだけど、「自分」って意外とショボいんですよね。自分1人じゃ仕事なんかできないし、絶対誰かと協力しないとうまくいかない。

そして、自分ほど他人は「自分」に興味がないことにも気づく。駄々をこねても始まらないし、飯は食わなきゃ生きてけない。利害関係もパワーバランスも考える。

だから折らなきゃいけない信条だって出てくるし、理不尽に対しても「しょうがないよな」って思いながら今日も生きてる。

でも、本当は「しょうがない」わけないんだよな? 理不尽に対して、「理不尽だ!嫌だ!」って叫びたいんだよ。もっと大事にしてくれよ!って思ってんだよ! でも言えない。弱いから。「自分」はこんなにも小さく、折れて凹んで打ち捨てられる。その悔しさに、自分自身が潰れていく。

だから、そんな弱い「自分」をせめて誰かに見ていて欲しいんだと思う。怒って欲しいんだと思う。抱えきれずに手放した大事なものを拾い直して、「それはコイツにとって大事なものだったんだよ!」って怒鳴って欲しいんだ。

しらせちゃんみたく泣きながらでも、「ざけんなよ」って。

 

「自立とは、依存先を増やすこと」

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こんな名言があるけど、それってつまるところ、自分がまっすぐ生きてたら、衝突するたびに落としてしまいそうになるものを、「ざけんなよ」って拾いながら怒ってくれる味方をたくさん作るってことなんだと思う。

完璧な人間なんていないし、「自信を持て!」なんて言われてもどうすりゃいいのか分からない。

なら、まずはたまりや日向みたいに信じられそうな奴を見つければいいんだろうな。そしたら、なんか向こうも信じてくれるようになって、「あ、自分って信じてもらえるんだな」ってようやく自分を信じられるようになるんだと思う。これでカミナが浮かんだ奴はツイッターで僕と握手。

そんなわけで11話で泣いちゃう奴超わかる。超好き。DMください。飲みに行こうぜ。しらひなは正義。ではまた

画像の出典:アニメ『宇宙よりも遠い場所』公式サイトより

書いた人:ノダショー

twitter.com

人生迷子になったら黙ってアニメ「宇宙よりも遠い場所」を見てくれ

僕たち私たち、生きづらいオタクたちの心を鷲掴みにした作品、『宇宙よりも遠い場所』通称『よりもい』。

 

イベントも行った本作品を3日に渡って振り返ります。

 

初回はライター/編集者として活躍する鈴木梢(あこ)さんです。

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最近はちょっといろんなことに疲れてしまい、一日に何度も何度も更新をしていたツイッターを止め、仕事も最低限ギリギリまで減らしています。

何をしてるかというと、たくさん歩いてひとりで花見したり、ジムで体を鍛えたり、家でゆっくりしたりしています。ほとんど家にいます。これ以上書くと本当にどうしようもないので、もうアニメの話をしますね。

で、そんなメンタル底のいま出会ったのが、アニメ「宇宙よりも遠い場所」。あんまりにも評判がいいから半信半疑で見始めました。

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一度きりの高校生活。入学前から漠然と「何かを始めたい」と思いながらも、失敗を恐れて結局なんにも始められない高校2年生の主人公・玉木マリが、同級生の小渕沢報瀬(しらせ)と出会い、仲間と共に南極を目指す物語。

あらすじの冒頭だけ聞くとピンとこないと思うし、私も「南極? 女子高生が? どうやって行くの? 目指して終わりの話なんじゃないの?」とか思ってたし、どんなアニメやねん…と思ってたんですけど、全13話、ただただ嗚咽し続けました。いやほんとに。

ってか「南極すごいね〜」ってアニメじゃない。いや南極すごいんだけど、生きるうえで大切なことは何かっていうのが全部詰まったアニメだから。そこだから。人生迷子の人間の頰を往復ビンタしてめちゃめちゃ愛を込めて抱きしめるくらいの力があるやばいアニメ。本当に、泣かせるとかいうレベルじゃなくて、完璧に嗚咽させにくるから。

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報瀬は南極観測隊として派遣された母が行方不明となり、母が最期を迎えた南極を目指す。でも南極に行くっていう目標を家族にも先生にも「子供が行けると思っているのか、いくらかかると思ってるんだ」って言われる。同級生にも先輩にも、みんなみんなにバカにされたり無理だと笑われたりして、学校では「南極」とあだ名をつけられ陰でクスクス笑われる。

そんな人たちのこと、アニメ見てる側からしたら「やめろよ! 人の夢を笑うなよ!」って思うけど、たぶん私も同級生だったら「変な人〜」ってなっちゃう。結局そんなもんなんだよね外野って。

でも報瀬は、「絶対に(南極へ)行って、『無理だ』って言った全員にザマーミロって言ってやる」と固く誓っている。しかもずっとバイトして100万円も貯めてる。もうその時点でね、そんな強い意志最後にもったのいつだよってなっちゃう、私は。すげーよ報瀬。思わず口も悪くなるよ。報瀬の強い意志、そして不安や葛藤、成長のすべてが13話に詰まってるからぜひ嗚咽しながら見て。

で、キマリはそれに感動して便乗するんだけど、報瀬は当然本気だと思ってないから、しょっぱなから「(観測隊の船の見学会が広島の呉であるから)本気なら来い」って言うんだけど、ここでキマリはちゃんと呉に行く。

「高校入ったら一度は学校サボる!」とか決めておいて、いざサボって東京行こうとしたら結局おじけづいて理由つけて普通に学校行っちゃう程度の行動力のなさだったのに(学校はサボっちゃだめだけど)、本気で乗っかって呉行っちゃう。人は何がきっかけで大きな行動を起こすかマジでわからん。

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で、キマリが南極行きのお金貯めるために始めたバイト先で知り合った三宅日向も南極行きに加わるわけなんだけど、まあ日向もわりと軽いノリで便乗する。最初は軽いノリに見えたけど、日向は日向で高校生活にトラウマがあって、高校辞めてて、そのトラウマと決別するためみたいなところがあって南極行きに便乗してる。

あともうひとりいて、タレントをしている白石結月って子。この子はもともと仕事で南極に行く予定があって(偶然すぎるけど)、でも全然行きたくなくて、なぜって芸能活動優先で学校生活なんてまともに送れてなくて、南極なんか行かないで学校行って友達つくって普通に暮らしたくて、でも芸能活動も嫌いじゃなくて…っていろいろモヤモヤしてる子。

でもキマリと報瀬と日向が南極目指してひとつになってるのを見て「私が探してた青春はこれだ!」って感じでもう超泣いちゃって、「この子たちと一緒なら南極行きます」って結局行くことになる。この子は「友達って何だ…」ってずっと悩み続けてるからそのへんもぜひ注目してほしい。

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ちょっとこのアニメ「宇宙よりも遠い場所」、通称“よりもい”について、結局何が言いたいかっていうと、人が何かを始めたり目指したりするきっかけなんてほんと何でもいいんだってこと。

私は6年くらいライターとか編集者としてそこそこ順調に食ってきたわけだけど、最近は、「私ってこの仕事で結局何がしたいんだっけ…そもそも何になりたかったんだっけ…」とかしんどい原点回帰ばかりをくり返していて、でもそれって別に、自分で考え抜いて全部自分でなんとかしようとしなくてもいいんだって思って。

誰かの夢を一緒に目指したり、軽いノリで便乗したりでも、とにかく何でもいいから始めて、自分が選んだ道と仲間とそして自分を信じてやり抜くことが大事だ…というわけです。

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人が何かをやろうとするとき、気軽に発した言葉や行動って、必ず誰かしらが「どうせやらない」とか「続かない」とか「やらない人ほどそういうこと言う」とか言うんだけど、別にそれでやめたっていいし、違うこと目指してもいいし、無視してやり抜いてもいいし、それは当然だけど自分の自由で、“誰か”なんて本当に関係ないんだってことです。自分の言うことやること信じることに何か言って来る外野は本当に本当にどうでもいい。ただ、覚悟決めて一点を目指すと人はぐっと強くなれるってことだけは言える。“よりもい”にはその全部が詰まってるんだよ…

ってか自分を信じられなくて人を信じられないというか、よりもいの中から見えて来るのは、誰かを信じることで自分を信じられるようになっていくというか。その姿が本当に本当に泣けます。

今すぐ見て。AmazonプライムとかHuluとかで見れるから。現実は厳しいなんて言葉クソ喰らえって思うから。自分と仲間を信じるために必要な名言と名シーンしかないから。じゃあね!

記事内画像引用元:アニメ「宇宙よりも遠い場所」公式サイト

書いた人:鈴木梢(あこ)

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「アイドルがオタクを追悼した日」の感動をドルオタ人生にかけて伝えたい

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こんにちは。アイドルは人生の背骨、ドンクライ編集部の稲田ズイキです。

先日、僕のとあるツイートがたくさんシェアされた。

アイドル”有坂愛海”さんが、孤独死したファン”おっきゃん”さんのために「追悼ライブ」を開催したのである。

これから書くのは、アイドル史で未来永劫語り継がれるであろう「奇跡」の現場を、一人のアイドルオタクの目線から語った”黙示録”。

アイドルオタクはもちろんのこと、そうじゃない人にも、その熱さがきっと伝わるはずだ。

※有坂さんは自身で曲を作り、10年以上歌を歌い続けてきたシンガーソングライターなので二人の関係は、「アーティストとファン」が的確な言葉だが、追悼ライブ中の有坂さんはおっきゃんさんのことを愛を込めて「オタク」と呼んでいらっしゃった。今回は、その関係性にリスペクトを込めて「アイドルとオタク」と呼ばせていただく。

 

アイドルがオタクの「追悼」をする とは?

アイドルがオタクの追悼ライブを開催する」とは一体どういうことなのか?

その経緯を以下にまとめた。(ご存知の方は飛ばしてください)

(1)有坂さんの10年来のファンであり、実施イベントのほとんどに参加していたおっきゃんさんのSNSの更新が止まり、ライブにも顔を出さなくなる
(2)不安に思った有坂さんが、ファンレターや仲の良かったオタク友達から情報を得て、住所を突き詰める
(3)有坂さんが自宅を訪ねてみたところ、隣人の人からおっきゃんさんが孤独死したことを知る
(4)お葬式もない、お墓もない、おっきゃんさんと最期に出会い、そして最期のお別れをするべく、おっきゃさんにゆかりのあるアーティストを呼んで「追悼ライブ」を企画した

(詳細については有坂さんのブログをご覧ください。)

その行動力、オタクへの揺るぎない愛に言葉を失う。

f:id:don_cry:20180422150753j:plain会場にはおっきゃんさんの似顔絵の前に大量のサイリウムが供えられ、

f:id:don_cry:20180422150813j:plainおっきゃんさんを偲ぶ言葉とともにお花が並び、

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ライブ現場で交流していたオタク仲間が会場に集まった。

熱狂と寂寥が交互に押し寄せるこのライブは、間違いなく「伝説の現場」であった。

ライブを見ている最中、何度もサイリウムが滲んで見えた。
こらえられなくなってしまったのは、そこにあまりにも美しすぎるアイドルとオタクの関係があったからである。

アイドルがオタクを救う。
僕らオタクが夢に見たようなロマンが、そこには現実として存在したのだ。

現場が”一つ”になる瞬間

アイドルの現場は「戦場」であることが少なくない。

推しからの「レス」をもらうために、誰よりも高くジャンプする。
中には、推しを自分の恋人だとガチで思い込んでいるオタクもいる。

アイドルからの承認をめぐる「俺が俺が」のエゴのぶつけ合い。

そんな様々な感情がひしめくアイドル現場で、この夜だけは、会場が”一つ”になったのだ。

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(有坂さんのTwitterから転載 https://twitter.com/arisakaemi/status/984099869798424576

会場の全員が「ケチャ」をアイドルにではなく、祭壇のおっきゃんに捧げた。

超絶カワイイおっきゃーん
会場のオタクたちは、曲の合間のコールで、アイドルではなくオタクの名前を叫んだ。

アイドルの現場でオタクの名前を叫んだオタク
これだけで、一冊の小説を書き上げられるだけの物語がある。
間違いなくアイドル史上初めての出来事だ。

そんなオタクの姿を見ながら僕は泣いていた。
泣きながらケチャを、泣きながらおっきゃんコールを、彼に捧げていた。
現場が一つになっていく感覚に、涙が止まらなかったのだ。

生まれてきてくれて 生きてくれてありがとう

そんな歌詞が会場に響いたときには、胸が引き裂かれるように痛くなった。

誰もがその歌詞に、おっきゃんさんを重ねただろう。

普段なら「この歌は自分のために歌ってくれている」と思ってしまうのが、オタク心というもの。
でも、この日だけは、全オタクが「これはおっきゃんのための歌だ」と認識していた。
そして、涙をこらえて歌うアイドルと、盟友であるおっきゃんに、全精力を注いだのだ。

オタクの心が、アイドルの心が、”一つ”になっていた。
この現場の様子を形容するのに、「美しい」以外の言葉が存在しないのが悔しい。
感情が言語を追い越し、魂が身体を突き抜けて、その美しい現象に「ありがとう」と叫んでいた。

僕もアイドルオタクのはしくれだから分かる。
アイドルの現場だけが「生きている」と思える気持ちが。
毎日アイドルに生き延びさせてもらえている気持ちが。

生を実感できる唯一の場所で最期を見届けられることのありがたさを、オタクならば誰でもわかるはずだ。
だからこそ、その日、オタクはおっきゃんさんのために集まり、心を一つにできたのかもしれない。

「アイドルとオタクは同じ時間を生きている」という実感

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(有坂さんのTwitterより転載 https://twitter.com/arisakaemi/status/984811138557755392

僕たちアイドルオタクは常に「死」と隣り合わせで生きている。

アイドルには必ず「卒業」や「引退」が存在するからだ。
その瞬間からアイドルとオタクの関係性は事実上「無」になってしまうのである。

もう二度と推しに会えない
あの悲しみを、絶望を、何と表現すればいいのだろうか。

推しとの時間が止まる。
推しがだんだんと”思い出”になっていく。

だから、あの日、推しに会えなかった”時間”を、死ぬほど後悔する。
なんであの時、僕はお金がないからという理由だけでイベントに行かなかったのか。
なんでただ台風が来てるだけなのに、ライブ遠征をキャンセルしたのか。

会いたいのに、もう会えない」のである。

そんな「死」がいずれ来ることをオタクなら誰もが知っている。
だからこそ、オタクはアイドルと過ごす一瞬一瞬を噛み締めて生きている。

アイドルオタクは、“いなくなること”の悲しみ、”いてくれること”のありがたさを誰よりも理解しているのである。

こんな感情、オタクからアイドルへ一方通行で流れているものなのだと僕は思っていた。

しかし、今回の追悼ライブで気づいたのは、アイドルもオタクと同じ”痛み”を感じているということだ。

有坂さんはブログの中で、このように語っていた。

「動員が一人減るだけ」なんてとてもそんなことじゃない喪失感を
いつもフロアにいるのにいないことに
心に穴が開いてしまった気持ちのまま今もいます。 

CD、2枚出たよ。2枚も、出たんだよ。
きっと「いいじゃん!」ってたくさん買って配ってくれたと思うのに。

じゃあ、お墓に持っていくとか場所も分からないで
どうやって届けるの。
空に歌えば、届いてるとか
天国に届くとか、
頑張ってるのを見守ってくれてるとか
正直ひとつも心に響かない。

だから「死ぬ」ってそういうことだよね。
だって「会えない」から

アイドルもオタクと一緒だった。
「二度と会えない」ことの悲しみに心を痛めていたのだ。

「オタクのことをこれほどまでに思ってくれているのか」
僕はその事実だけで胸が熱くなった。

もちろん、それは有坂さんとおっきゃんさんの間に固い信頼関係があったからに他ならない。
しかし、有坂さんのおっきゃんさんへの思いをブログで読んで、おこがましいかもしれないが、それが自分のことのように嬉しかった。

「僕に推しの”時間”が流れているように、推しにも僕の”時間”が少なからず流れている。」

そんな当たり前のようで、実感のできなかった事実を、有坂さんとおっきゃんさんの関係から感じたのだ。

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(BARKSさんより転載 https://www.barks.jp/news/?id=1000110114

思い返せば、僕が大好きなモーニング娘。の道重さゆみは、卒業ライブでこう語っていた。

みんなに出会えてよかったです。さゆみのことを見つけてくれて、出会ってくれてありがとう。モーニング娘。になって、みなさんと出会えたから、道重さゆみが存在する意味があったと思いました。さゆみのファンの人たちが、ほかの誰でもない……みんなでよかった。 

応援してくれたことでもない。
CDを買ってくれたことでもない。

出会えたことを、オタクに感謝してくれていた。
僕たちが彼女の人生に存在していたことに感謝してくれていた。
それこそが道重さゆみの存在する意味なのだと言ってくれていた。

今ならこの言葉の意味を理解することができる。
オタクとして、こんなに嬉しい言葉はないのかもしれない。

僕たちオタクはアイドルの人生にちゃんと存在するのだ。
僕たちがアイドルと過ごしている時間は、僕たちだけではなく、アイドルとも共有できているのだ。

だから、僕たちは、今すぐに、1秒でも長く、推しに会うべきなんだと思った。
どちらかが消えないうちに、思い出になる前に。
僕らが会いに行かない限り、時間を共有することはできない。
当たり前だけど、これが今回、僕がたどり着いた圧倒的な真理だ。

 

アイドルに出会えて嬉しくないオタクなんて存在しない

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ところで、今回の追悼ライブが話題として広がっていく中で、「おっきゃんさんは一人で静かに死にたかったかもしれないのにな…」という意見がいくつか見受けられた。

こうしたコメントを受けてか、有坂さんも「追悼ライブなんてされたくないって人はいるだろう」と複雑な心中を語っていた。

でも、こういうコメントする人は、知らないんだと思う。
アイドルとオタクの間で共有されている時間を。感情を。熱量を。

ましてや、10年以上、有坂さんのほとんどのイベントに通い詰めたおっきゃんさんである。
おっきゃんさんのことは詳しく存じ上げないが、アイドルオタクの一人として感情を勝手に代弁させていただきたい。

 

嬉しくないわけがないだろ!!!!!!!!!

オタクが現場で自分のために”一つ”になってくれて
最期の最期に、自分の大好きだった人に会えることが

嬉しくないわけなんかないだろ!!!!!!!!!(涙)

そのありがたさのわからない人に、オタクの心を一生語ってほしくなんかない。

時間の止まっていた時計が、推しとの最期の出会いで動き始めるんだ。
有坂さんに笑顔で「ありがとう」と言うに決まっているじゃないか。
アイドルに出会えて嬉しくないオタクなんて存在しない。

たしかに、アイドルとオタクは家族でもなければ、友達でもない。
お互いに本名も知らなければ、住所も知らない。

だけど、一人ぼっちのとき、明日を生きるのがどうしようもなく辛いとき、アイドルはいつだって僕たちのそばにいてくれた。
何よりも心の支えになってくれるのはアイドルだった。

勇気を、パワーを、優しさを、強さを、自信を、安心感を、そして、愛をくれた。

僕たちは知っている。
ダンスレッスンで流した汗を、一枚のCDに込められた願いを、その歌詞のワンフレーズに込めたこだわりを。
知らないこともあるけど、分かる。

僕らにとってアイドルとは、推しとは、一つのコンテンツなんかじゃない。
人生そのものだ。

だから、大好きなアイドルと最期に出会えて、推しが自分のために涙を流してくれて、嬉しくないわけなんかないということを、僕はどうしても伝えたい。

勝手な主観だし、おっきゃんさんの気持ちはもう確かめようがないけど、でも、

アイドルに人生を救われてきた人間の一人としてこれが伝えられないと、僕の人生は嘘になってしまうから、なんの意味もなくなってしまうから。

だから、絶対におっきゃんさんは喜んでいるって、僕は胸を張って言いたい。


追悼ライブを終えて

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(有坂さんのTwitterより転載 https://twitter.com/arisakaemi/status/984811138557755392

アイドルの現場が今までどれだけ自分に命を吹き込んでくれていたのか。
推しがいてくれることのありがたさ。
自分が1人のアイドルを推すということの意義と責任。
今すぐに、1秒でも長く、推しに会うべきだということ。
「アイドルは僕らを救う」ということ。

今回の追悼ライブは、自身のオタク活動を考え直すきっかけになったと思う。

個人的な思いを、オタクの総意のように書いてしまった点は反省している。
オタクごとにアイドルを応援するスタンスは様々である。

でも、一つだけ共通していえるのは、
いつだってアイドルに感謝を忘れちゃいけない」ということだろう。

そんな当たり前のことを再認識させてくれた、有坂愛海さんとおっきゃんさんには感謝の気持ちが尽きない。

それでは。また次の記事で。

 

書いた人:

【短編小説】世にも奇妙なオタク物語『2078年のサブカル男子』

      f:id:don_cry:20180414013033j:plain

「自分たちオタクが登場すること」と「奇妙であること」だけがルールの短編WEB小説企画、「世にも奇妙なオタク物語」。様々なジャンルの作品が掲載される予定です。

第1回は、サブカルを愛する佐伯ポインティ(@boogie_go)による、SF小説『2078年のサブカル男子』をどうぞ。

 

***

 

2078年。

バーチャル、現実を問わず、人類の価値観の対立は激しくなり、地球上に残された貴重な資源の奪い合いは激化の一途を辿った。

2万RTを超えた際に湧きだすクソリプのような血みどろの戦争が終わり、人類は価値観が一緒の人間たちで居住区を分けて、集団で暮らすことになる。

その価値観を決定するのが、「ブランド」である。

戦後、人々は衣食住を依存する「ブランド」を決め、そのブランドのコミュニティに暮らす人々は生涯、その店しか使えないことになったのだ。その子孫たちも、ブランドの中で生まれ、ブランドの中で暮らし、ブランドの中でまた新たな子を産む。

もはや、地区に住むのではなく、ブランドに住む時代になったのである。

こうして、世界一遊べる自律本屋型生活地区「ヴィレッジヴァンガード」に住む民族、“ヴィレッジヴァンガーディアン”が誕生した。伝統的サブカルチャーの守護者である彼らの民族に、1人の子が産声をあげる。

名を、大森フランキー。

フランキーは、父・大森官九郎と、母・みうらねむの子だ。

両親が好きなサブカル著名人の下の名前を子供につけるのが、ヴィレッジヴァンガーディアンの伝統だ。彼らは、ホログラム版「リリー・フランキーの人生相談」(第32543回目)で出会い意気投合したため、フランキーと名付けたのである。ちなみにヴィレッジヴァンガーディアンの第1世代は、自らの苗字をサブカルチャーを牽引した著名人にあやかって名前を改名した。父方の先祖は大森靖子、母方の先祖はみうらじゅんが好きだったのだろう。

フランキーの暮らすヴィレッジヴァンガードと、戦争が起きる前である2010年代に存在していた、店舗型のヴィレッジヴァンガードとは大きく異なる点が2つある。

1つ目は、細い高層ビルがいくつも刺さった巨大な城のような外見をしていることだ。

「ヴィレッジ」と呼ばれるこの建造物の中には、ヴィレッジヴァンガーディアンたちの居住空間が存在している。ヴィレッジのデザインを担当したのは、安藤忠雄と大友克洋と坂口恭平の人工知能たち。それぞれの人工知能の意思決定がせめぎ合ってデザインが確定した。

このようにヴィレッジヴァンガードは、サブカルチャーを牽引した人物をトレースした人工知能を多く保持している。その人工知能によって著名人のアウトプットは、その人物の生死に関係なく今もなお出続けている。菊池亜希子のムック本『マッシュ』はvol.3750を突破し、さくらももこのエッセイは8000冊以上発売され、星野源のコラム本は総計12万冊、ゆうこすのモテコスメ本は累計273万冊にも及ぶ。

2つ目の異なる点は、増えすぎた作品や雑貨に対応すべく、自律型リコメンドAI「VV」が発達していることだ。

個々人のカルチャーの嗜好、食事の好き嫌い、インテリアの好みなどに合わせてVVが全てをリコメンドし、居住空間に配送される仕組みになっている。

 『人間仮免中』を読み始めた次の日には、自宅に『アル中ワンダーランド』が届く。

『先生の白い嘘』と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を読破した瞬間に、『ヒメアノ~ル』と『宮本から君へ』が届く。

『社会人大学人見知り学部卒業見込』に満足すると、『女子をこじらせて』と『久保ミツロウと能町みね子のオールナイトニッポンやってみた』が届く。

『とんかつDJアゲ太郎』に興味ありと返事すると、『ヒップホップ家系図』と『ヒップホップ・ドリーム』が一緒に届く。

また、スターウォーズのTシャツを着るとスパイダーマンのTシャツが届き、デスソースをかけていると18禁激辛カレーが届くようになる。

 衣食住とカルチャーの全てが管理されており、ヴィレッジヴァンガーディアンたちは、自分で選ぶ労力をかけずに、好みの作品や商品に巡り会えるのだ。

そうして、ヴィレッジヴァンガーディアンたちがサブカルチャーの火が消えぬよう守りながら暮らす中、17歳になった大森フランキーは、ひどく退屈していた。 

 

***

 

大森フランキーは両親と同じく、多読家だった。タレント本も、デザイン雑誌も、エッセイも、漫画も、コラム本も読んだ。なぜなら、他にすることがないからだ。

ヴィレッジヴァンガーディアンは、VVのリコメンドに従って読書したり、食事したり、衣服を着たりすると、その度にいくらかの「V」が貰える。VVが発達する前の名残と言われる、黄色の紙に大きく文字が書かれたPOPが、貨幣として流通しており、「V」という通貨単位が名付けられているのだ。VVのリコメンド通りに何かを購入して消費するとVが貯まり、またVVのリコメンドによって商品を購入できる。フランキーは、生まれてこの方、ヴィレッジヴァンガード内での読書・食事・飲み会・デート以外のことを体験したことがなかった。

そのブランドに生まれた者は、ブランドの外には出れない。フランキーの過ごす毎日は、ヴィレッジヴァンガーディアンたちの当たり前の生活なのだ。

「毎日エッセイを読んだり、最近読んだ漫画について語ったりしてるけど、飽きた…もう飽きたんだ…」

フランキーは膨大な数の書籍や雑貨、服、レトルト食品、菓子、飲料に囲まれていた。

たとえば…『ウルトラヘヴン』、エドワード・ゴーリーのマグカップ、『波よ聞いてくれ』、『うみべの女の子』、『乱と灰色の世界』、『Tokyo graffiti』、『分校の人たち』、HARIBOグミ、『史群アル仙作品集 今日の漫画』、『クリームソーダシティ』、ネコノヒーのパスケース、『夏がとまらない』、『ブスの本懐』、シャクレルプラネット、『映像研には手を出すな!』、吉本ユータヌキの缶バッジ、『奇界遺産2』、NIXONの時計、『捨てがたき人々』、『東京都北区赤羽』、『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『モテキ』、コップのフチ子、『ジョーカー アンソロジー』、ウォンカチョコレート、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』、『人間コク宝』、『ヘルタースケルター』、『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』、たなかみさきのラージトートバッグ、『今 敏 絵コンテ集』、ねほりんぱほりの人形、『星を継ぐもの』、『恋と退屈』、愛まどんなのTシャツ、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』…などだ。

「Vをもらって、またVで何かを買って、またVをもらうの繰り返し。僕の人生は、このまま、ずっとこうなのかな…」

部屋での独り言は続く。

「僕は、何のために生まれてきたんだろう。きっと、何か理由があるはずだ…」

ブツブツ言いながら部屋を歩き回り、彼は人生の一番の友人であり執事でありマネージャーである、自律型リコメンドAI「VV」に話しかけた。

「ねぇVV、こういう時にオススメの本ないかな?」

フランキーは部屋の指向性スピーカーに向かって声を出した。透明なガラスの奥にあるスピーカーからは、機械的な音声が響く。

「該当件数は数億作品を超え、表示オーバーでス。人気度の高い作家の書籍とから順次配送いたしまス。」

「そんなにあるの!?生きる理由の答えが書いてある本が、あるんじゃないの?」

「いいエ。「何のために生まれてきたのか」という疑問が発生したときにオススメの本というオーダーは初めてですのデ、広範囲のコンテンツ検索にかけましタ。配送する作品の中に恐らくその質問に答えうる作品や疑問のヒントになる作品があると思われまス。」

「そんなに沢山あるんだね。探してくれてありがとう、VV。君のオススメは間違いないから、楽しみだよ。」

そうして、フランキーの元に届いたのは、ヴィレッジヴァンガードにある膨大な量の“小説”たちだった。

江國香織 、吉田修一、西加奈子、燃え殻、森見登美彦、恩田陸、町田康、辻村深月、村上龍、太宰治、筒井康隆、樋口毅宏、嶽本野ばら、芥川龍之介、角田光代、綿矢りさ、又吉直樹、山田詠美、宮沢賢治、三浦しおん、金原ひとみ、夢野久作、朝井リョウ、谷崎潤一郎、村田沙耶香、桐野夏生、三島由紀夫、安部公房、こだま、寺山修司、村上春樹、道尾秀介、伊坂幸太郎、佐藤正午、本谷有希子、よしもとばなな、湊かなえ、伊藤計劃、中村文則、桜庭一樹、カズオイシグロ、山崎ナオコーラ…

「エッセイとかタレント本は読んだことあったけど、今まで小説って読んだことなかったなぁ…。」

「はイ。過去の好みの小説の傾向が分かりかねますのデ、リコメンドが上手く機能せズ、申し訳ありませン。」

「いやいいんだVV、ありがとう。広く読んでみることにするよ。こんなこと生まれて初めてだな…わくわくするよ。君のおかげで何か分かりそうだ!」

「喜んでいただけテ、何よりでス。読了次第Vを付与いたしまス。本日もご利用ありがとうございましタ。」

そこから、フランキーが小説を読む日々が始まる。

そしてこれが、フランキーの人生を変える選択になるのだった。

 

***

 

フランキーは様々なジャンルの小説を乱読することによって、1つの疑念を強く抱きはじめていた。

自分は何者なのか。

思えば、何も考えずに、タレント本やエッセイや漫画を読んで過ごしてきた。しかし小説を読み始めて、登場人物が抱く深き悩みに、自分も悩まされることになったのだ。自分が今まで読んだ本は、タレントやエッセイストが悩んだり、挫折したり、迷ったりしても、解決してきた。もしくは冗談で終わっていた。

だが、小説は違った。悩んだまま終わったり、問題を抱えたまま、終わることが多々あった。

自分は何をするために生まれてきた、何者なのだろう。

そんな悩みが強まっていった時、フランキーはふと気付いた。

「生まれた時から、読む本も、遊ぶ友達も、デートする相手も、VVに勧められて、全てを享受してきたけど、僕は何も決めていない…。小説の主人公たちは、自分で決断し、行動することによって、人生に変化を起こしてた…そうだ…僕は、僕自身は、何も行動していないじゃないか!」

行動すれば何かが変わる、という信念のもと、フランキーはVVへの注文を自分で選んで頼み、行動することにした。

届いた丸尾末広のTシャツではなく、自分で選んだ漫☆画太郎のTシャツを着る。

『ぼのぼの』のマグカップではなく、RatFinkのマグカップで飲む。

配送されてきたGREGORYのリュックサックではなく、THRASHERのバッグを背負って外出する。

リコメンドされた『スクールガールコンプレックス』とTENGAでオナニーするのではなく、注文した『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』を読みながら自分の手でオナニーをする。

徐々に、フランキーは自分の意志で決定することに心地よさを感じていた。

時には好みと違ったものを注文し失敗することもあるが、次からは避ければいい、という学習に繋がるという考え方で、失敗を恐れなくなった。

 

そうして、読んでいた小説がなくなった頃、とある変化が起きた。

きっかけは、何気なく手に取った『月刊MdN』。そこでフランキーは、グラフィックデザイン、タイポグラフィ、アートディレクション、そしてクリエイティブ業界を知った。その日から、徐々にフランキーはVVに注文する本のジャンルが変わり出したのだ。

『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』『超AI時代の生存戦略』『考具』『Steve Jobs』『デザインノート』『お金持ちが肝に銘じているちょっとした習慣』『お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ』『松浦弥太郎の仕事術』『ハーバードの人生を変える授業』『秋元康の仕事学』『多動力』『1万円起業』『センスは知識からはじまる』『夢を叶えるゾウ』『休む技術』『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』…

そう、ヴィレッジヴァンガードの中に微量に存在していたビジネス書や自己啓発本によって、フランキーの意識は高まり始めていたのだった。彼は拳を握りながら決意する。

「僕は、この古い慣習にとらわれた地区から、圧倒的イノベーションを起こしてやる。まだ見ぬ外の世界に出るべき、クリエイティブな人材なんだ!」

そうして彼は、ヴィレッジヴァンガードから脱出するためのソリューションのアイデアを模索する日々を送った。

 

***

 

ヴィレッジヴァンガードに存在する、ビジネス書や自己啓発本の多くを読み込んだフランキーは、部屋でブツブツ独り言を言っていた。彼は沸騰しそうなほど脳を回転させながら、既存のコンセプトを刷新するような独創的フレームの考案を試行錯誤していた。

 「クリエイティブなアイデアが必要だ…自らの行動からしか、革命やイノベーションは起きないんだ…人生を変えてやる…変えるぞ…」

「おっしゃっている言葉の意味を理解しかねまス。何か私にお手伝いできることはございますカ?」

「うるさいんだよ!!!…おい…まさか、僕から仕事を奪おうとしてるのか…?お前みたいな、人工知能に助けてもらうことはないっ!!」

「お言葉ですガ、フランキー様の日々のコンテンツ消費活動ハ、旧時代の意味での「仕事」には該当しませン。」

「黙れ黙れ黙れ!何が消費活動だ!僕はな、毎日クリエイティブなアイデアを必死に考えてるんだよ!!実行に移すのは時間の問題なんだ!!!」

そうして、VVの音声が聞こえる指向性スピーカーに、近くにあった『30万円貯まる貯金箱』を投げつける。ピシ、という音を立ててヒビの入ったスピーカー防護ガラスを見て、フランキーはとあるアイデアを思いつく。

「なんてことだ…僕は勝手に、ここにいなきゃいけないと思い込んでた…既成概念に囚われていたんだ…。そうだ…そうしよう……僕は…ヴィレッジヴァンガードを、出て行く!」

そうして彼は部屋を出て、空の見える広場に行き、そこで本を積み上げる。大量のタレント本や自己啓発本、ビジネス書や漫画で円をつくるようにして、本を置いていく。本の塔は高く高く積み上がり、とうとう空の見えるガラス窓にたどり着いた。

「ずっと、壁だと思っていたけど、ここは窓だ。外に繋がっている、窓。ここを割って出たら、もう外の世界なんだ…」

光が強く、外の景色は見えない。だが、フランキーには、見たことない世界が広がっている予感がしていた。本の強度ではガラス窓は割れないと思っていたフランキーは、注文しておいた超合金製の『太陽の塔のロボ』を力強く握る。

「僕は!ここじゃないどこかに!!行くんだ!!!」

何度も叩きつけ、ヒビが入り、光が入る。

そしてフランキーは、光に包まれた。

 

***

 

「……あれ………ここは、ずっと前に『POPEYE』の特集で読んだとこだ…もしかして、渋谷…?」

フランキーはガラス窓を破り、ビルの高層階から出たものの、ビル自体は斜めに傾いていたので、落下せず地上に降り立ったのだ。

そして到着したのは、渋谷だった。しかし、まったく人のいる気配がない。なぜなら、多くの人間はフランキーと同じようにブランドに住んでいるからだ。

渋谷を歩くと、大きな「M」という文字と、生まれてから嗅いだことのない濃密な油と塩の匂いを感じる。

そう、マクドナルドである。

「美味しそうな匂いがする…これが外の世界…。これが、僕が望んでた世界だ!」

生まれて初めて嗅ぐポテトの匂いに気を取られ、彼は後ろから近づく足音に気付かなかった。

「Mで待ってるやつ もう Good night」

いきなり背後から殴打されて、フランキーは気を失う。

気がつくと、室内に寝ていた。

起き上がり周囲をフランキーは見渡す。

 明るいライトに、棚に置いてある物を包装するビニールがキラキラ輝いている。

ほのかに、遠くから音が聞こえる。そしてその音が、一定のリズムを保って、声と一緒に奏でられてることに気付く。

そこでフランキーは、なぜその室内に既視感があるのか思い当たる。

『Quick Japan』の誌面にたまに登場していた、見覚えのある店内だったのだ。

スピーカーから、声が聞こえる。

「NO MUSIC,NO WORLD!ようこそ、タワーレコードへ!」

いきなり大きな音を聞き、少し驚くフランキー。

「…タワーレコード…?」

「そう、そして我々はタワーレコーダー。音楽を守りCDに全て記録して生きる民族だ。Mで待ってた君は、きっとどのブランドに住むか決め兼ねていたんだろう。少し手荒な手段になってしまったが、迷える君をグレッチで殴って、ネオシティ探索回収型AI「Suchmos」に回収させた。もう悩まなくていい。」

フランキーは、別のブランドの居住区に無理やり連れてこられたことを認識した。

そこで彼はほのかに流れる音の正体に気付く。

これが、音楽だ。

彼は生まれてこの方、ヴィレッジヴァンガードに流れる「→Pia-no-jaC←」しか聞いたことがなかったのだった。

「君は今日からこの店の住人だ!ここには、宇多田ヒカルも、パガニーニも、ぼくのりりっくぼうよみも、Slipkontも、チャイコフスキーも、CreepyNutsも、björkも、ヤバいTシャツ屋さんも、TWICEも、PUNPEEも……なんでもある!!!さあ、CDを聴くんだ!まずは…」

そうしてフランキーは、音楽こそが、自分の人生を変えてくれるかもしれないと思い始めていた。

(終)

 

書いた人:佐伯ポインティ

twitter.com

【緊急増席!!!】DON'CRY×KAI-YOU『宇宙よりも遠い場所オフ会』、4/22(日)渋谷にて開催!!!

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どうも!編集長のノダショーです。

単・刀・直・入!!!

KAI-YOUさんと『宇宙よりも遠い場所』愛称『よりもい』オフ会を開催します!!! 

 

涙腺がバッキバキに破壊された名作

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(出典:amazon / ©KADOKAWA メディアファクトリー)

ドンクライのイベントでもかなりの回数、その名を耳にした作品、『よりもい』。

言わずもがな、周囲に「無理だ」「諦めろ」と言われても、止めず退かず、本当に南極に降り立った少女たちのストーリーです。

それは生きる上でのしがらみや、周囲からの目を気にしながら生きる僕たちの心を…いやッ! 魂を震わした作品に違いありませんッ!

初めて踏み出す一歩、初めてできた友達、初めて自分のために怒ってくれた瞬間、初めて一緒に泣いた夜…。

きまり、報瀬、日向、ゆず。彼女たちが共有し、乗り越えた時間…。それは砕氷船のごとく、横で見守った僕らの涙腺をバッキバキに破壊してきたことでしょう!

 

『よりもい』をいろんな角度から語ろう!

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(出典:amazon / ©メディアファクトリー)

でも、春アニメが始まる中、なぜ昨シーズンの『よりもい』なのか?

いやもう簡単ですよ!『よりもい』を奥の奥まで楽しみ!?  エモのエモまで語り合い!? 文脈の文脈まで考え尽くさないと!? この名作と触れ合った気持ちを昇華できない…次にいけないからですよ!!!

いいんですか!? この感動を前期あった他のアニメと同じようにスーッと忘れ去ってしまって!? いいんですか!? こんなに語れる作品を、本当に語り明かしたと言えるのか!? もっともっと、考えに考えて、魂の奥の奥までブチ込める名作なんじゃないか!?

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そんなわけで、4/22(日)16:00~18:30まで、渋谷Aurraにて『よりもいオフ』を開催だ! 普段はDJイベントとかをやっている空間でわちゃわちゃ騒ごう!

 

テーマごとの振り返りと飲み会を実施!

オフ会ではまず、ブチ上がる飲み会の前に、みなさんの思い出とエモみを最大限に刺激して引き出しながら、語る深みも作り出す「振り返り」をお届け! 

振り返る人とテーマはこちら!

よりもいが人生を救う理由ーゲスト:鈴木梢(あこ)編集者/ライター

「私の友達を傷つけた代償だよ!」 11話のしらひなで何でこんなに泣いちゃうの? ーノダショー(DON'CRY)

9話報瀬の「ざまぁみろ!」にクッソ共感するーカエデ(DON'CRY)

CLANNADは「人生」、Fateは「文学」、よりもいは「感情」。そう呼ばれるべき3つの理由ー藤木涼介(KAI-YOU)

何者にもなれないと決めつけるすべての「めぐっちゃん」なお前らへーおんだゆうた(KAI-YOU)

その後は、最高に高まったメンタルからの、キャラ人気投票アリ!  酒アリ! 食事アリ! 好きなキャラ、シーンで集まっておんおん泣こう!

参加応募はドンクライ公式アカウントに、

・お名前
・参加人数

を記載の上、DM(フォローしてなくても送れます)してくださいませ。

twitter.com

よければぜひ、『よりもい』好きなお友達をお誘いあわせの上、おこしください!

よどみの中で蓄えた力が爆発して、すべてが…動き出す!

 

開催概要 

日時:4/22(日)16:00~18:30
タイムテーブル:16:00~17:00 振り返りトーク / 17:00~18:30 懇親会
場所:渋谷 Aurra(mapはこちら
参加費:3,000円(ドリンク飲み放題・食事あり)
定員:20名⇨30名
応募:DMより

読者によるドンクライのイベントレポ。友達にも話せなかったことが話せた、優しくて幸せな時間

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めまして。たりんと申します。

恐らく、アニメや漫画には皆さんほど詳しくはないのですが、皆さんと同じく「作品」によって孤独から救われて生きている当事者です。

つまり、ドンクライを涙と鼻水流しながら読んでる一人です。

そして、ずっと行きたかったドンクライのイベントにやっと予定が合って初参加。

そして、30人が5班に分けられた「大編集会議!!!」で、私の班で提案した企画『参加者目線で語る、ドンクライのイベント行ってみたレポ』が、”もっともドンクライらしい企画”として、めでたく編集長賞をゲット。

班を代表してレポートしてみたいと思います。

 

分かってもらえる安心感がすごい

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さて、「行きたい!」と思って申し込んだ大編集会議。

もちろん楽しみではあったのですが、どうしても、「私はそんなにアニメも漫画も詳しくないし大丈夫かな……」という不安がありました。

でも、その不安は杞憂に。とっても楽しくて幸せな時間を過ごすことができました。

では、どうして楽しく過ごせたか?

その理由は、ひとえに、大編集会議に集まった参加者が、相手の「好き」を否定せず、理解しようとする人たちばっかりだったから。

会議でも、そのあとのお花見でも、参加者の方と話してる間中ずっと、「わかってもらえてる」という安心感と、「新しい世界を見せてもらってる」という嬉しい刺激を感じて、終始セロトニンだばだばだった。

そして、そんな幸せタイムは、もう序盤の自己紹介から始まっていたんです

 

大好きなものを話す恐怖を超えたら…

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まずは5つの班に分かれて着席。アイスブレイクとして自己紹介が始まります。ハンドルネーム以外で話す項目は…

「大好きな作品」「最近、他人から異常な熱狂をもって薦められたコンテンツやイベント、体験、カルチャー」「最近、自分が異常にハマってしまってるコンテンツ、イベント、体験、カルチャー」の3つ。

順番に発表されてゆく班の方々の「好き」は、VTuber、モデルガン、フィギュア制作などなど。

どれも私は知らない世界だったのだけど、どれもめっちゃ面白そうじゃないの……!

同時にちょっぴり過る不安

各人、班の中に共感者が現れて「あ〜!わかる!」って盛り上がってるのに、私の番で、シーン…ってなっちゃったら辛いな…!

しかしここは他でもなくドンクライに共鳴した人が集まる場所。私が挙げる作品を誰も知らなかったとしても、傷つけるようなことを言う人は居ないと信じたい……。

うーんでもみんなが知ってそうなヤツを選びたい…コマンド無難で行こうか、あ〜どうしよううううううううううううあおおああああああああああでも、好きなもんは好きなの!!!

そして、チェコのカルチャーに興味があって好きな私は、勇気を出してチェコ産ゲーム『Machinalium』をおすすめしてみたら…

「あ、見た事あるかも」

「へ〜!知らなかった、でも面白そう!」

「俺もインディーゲーム好きだけど、俺とは違う方向で好きなんすね〜」

え〜〜〜〜〜〜〜みんなめっちゃ優しい〜〜〜〜〜〜!

そうそう、Machinaliumめっちゃ良いんですよ〜〜〜〜〜〜。

見栄も意地もなく、ただただ「好き!!」という気持ちを聞いてくれる人がいて、頷いてくれる人がいることって本当に嬉しいし、幸せすぎる。私が犬だったらウレションしてる。

 

否定されてきた「好き」が報われる

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……正直に言うと、これまで自己紹介で「大学では、チェコ語勉強してました」とか「チェコのカルチャーが好きです」って言うと、

「チェコ語?中国語じゃなくて? やって何になんの?笑」

「へえ~チェコってプラハ?わたしは一生行かないと思うわ…」

とか言われたんですよ。本当に。

……興味持ってくれなくても良いけど、否定しなくたっていいじゃん。

そう思うことが何度もあったけど、ここにはそんなことがなかった。自己紹介から始まって、イベントの間中、ずっと、その幸せを噛み締めてた。

「好き」を否定せず、ひとまず受け止めて、たとえ知らないものだったとしても、感心したり、驚いたり。

全然わかってもらえなかった、わかってもらえることすら稀だった私の「好き」。受け止めてもらうことの嬉しさに感動したのは、私だけじゃないと思う。

 

言いにくい生き辛さが共有できた

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さらに、「さすがドンクライだ……」と思ったのは、その共感とか受容が「好き」についてだけじゃないこと。

ドンクライ読者に共通するのは、何かの作品を「好き」ということ、そして、その「好き」に救われたこと。

辛かった記憶や、今抱えている「生きづらさ」、それぞれのディティールは違うけど、みんなそういうものを持っている。

今まで絶対に初対面の人に話すことはなかった自分のコンプレックスとか、家族の悩みとか、弱くてやわらかくてめんどくさい部分。

勇気を出して明かした時に、他の参加者に「ああああ〜〜〜それめっちゃわかる〜〜〜〜〜〜!」って言ってもらえること、そのことにまた救われる。

「好き」だけじゃなくて辛かった経験も受け止めてもらえるんだ。

「みんな、“救われた経験”があるんだ」という共通認識があるからこそ、優しくて幸せな時間が出来上がっているのだと思う。

 

残念だったこと

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残念だったことを強いて言うなら、参加者の皆さんからの情報が多すぎて、処理しきれなかったこと。

みなさんの「好き」なもの、例えば可愛くて仕方ないVTuberの名前とか、おすすめされたゲームのタイトルとか、結構忘れちゃっています。

会の序盤では、ググってスクショしてメモを残してたのだけど、段々楽しくてそんなことしてる場合じゃなくなってたし、最後の方は酔っ払ってたし……。

あ、あと、肌寒い日だったのに、最初、会場がめちゃくちゃ暑かったこと(参加者が熱烈すぎたのかな)。

最後に、名札がガムテープだったから、ノリがニットについちゃったのが残念でしたね…でも、もうほんと、それだけだよ…。

 

自分たちなりの幸せがあればいい

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万人にとっての「幸せ」って、もう無いよね?ということに気づいてる人はきっとたくさんいる。

有り体の言葉だけど、私の幸せは私の手でつくっていけるものだし、自分の幸せを自分で決めているということが、幸せそのものなのだと思う。

「好きで、自分が納得していたら、他人に何言われても関係ない!」

確かに、そう思ってはいるけど、どこかで不安もある。誰にも理解されないことをやり続けることは、結構孤独でそれなりに苦しい。

だけど、自分の弱さも、思い切って誰かに話すとすっきりする。自分だけじゃないんだなと思えることで、こんなに楽になるんだなと気づく。

なんなら今同じく苦しんでいる人にとっては「自分だけじゃないんだ」と思えることで少しの希望にさえなるかもしれない。

 

ドンクライが個室からシェアハウスに

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ドンクライが「深化する」ということに対して、参加者の私が感じたことは、個室がシェアハウスになったみたいな感じかな?と。すいません、あんまり上手い例えではないかもだけど。

今までのドンクライは、好きな作品と一緒に辛さを”やり過ごす”、一人静かに夜を越えるための小さな個室。

でも、これからは、作品を通じて人にも会って、気持ちを受け止め合うことができるシェアハウス

共有スペースで一緒にご飯を食べたり、ゲームしたり、映画を見たり、お酒飲みながら喋ったり。

ここに来ると辛さがゆっくり溶けてゆくような場所になるんじゃないか? だけどもちろん、一人で篭れる個室も確保してある。

これからもっと、ここにやって来る人が増えて、もっと楽しく過ごせたり、一緒に何かをはじめたり、ここで仲良くなった人たちで、別のお家を作りはじめたり、そういう風になるかもしれないなと思った。

もちろん、一人でそっと入ってきた人の場所を見つけてあげて、少しだけ目配せするみたいな優しさはそのままで。

想像を巡らすのは、ドンクライがこれからどんな素敵な場所になるのかということ。とても楽しみです。

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